中東かわら版

№112 パレスチナ:ガザ地区南部で死傷者が急増

 イスラエル軍は、10月12日(現地時間)にガザ地区北部の住民に対し24時間以内に同地区南部に移動するよう通告し、21日にも同様の内容のビラを空中から散布し、住民に移動するよう脅迫した。また、イスラエル軍は18日にガザ地区南部の海岸の一角を「人道地帯」と称し、ガザの住民にこの地域へ移動するよう促した。しかし、ガザ地区南部でもイスラエル軍の攻撃は激しさを増しており、ガザ地区の保健省によると22日以降の同地区での死者の65%がガザ地区南部の死者である。2023年10月25日付『ナハール』(キリスト教徒資本のレバノン紙)は、『ロイター』を基に、本件につき要旨以下の通り報じた。

*現地の住民によると、イスラエルによる攻撃は25日に激化し、ハーン・ユーヌス市では住宅複数が破壊された。

*イスラエル軍は、ハマースに無関係の民間人の被害を軽減するために可能な限り措置をとると表明する一方、ハマースのものらしき対象は攻撃するとの立場である。イスラエル軍は、民間人と一緒にいる場合でも戦闘員が暮らしている家屋は「正当な攻撃対象」だと表明した。

*イスラエル軍は、攻撃対象がガザ地区北部に集中していると考えており、ガザ市での大規模軍事行動の準備をしていた。このため、イスラエル軍は民間人に対しガザ地区南部に移動するよう求めた。ただし、ガザ市にハマースの主力がいるとしても、同派はガザ地区の民間人住民の中に根付いているというのがイスラエル軍の見解である。

*24日時点での国連機関の推計によると、ガザ地区内で140万人以上が避難民となった。エジプトやイスラエルに通じる通過地点はすべて封鎖されており、ガザ地区の住民は実質的に同地区内に閉じ込められている。

評価

 本稿執筆時点で、ガザ地区保健省によると同地区での死者数は7000人を超えている。ただし、同保健省の発表する死者数にはアメリカなどから疑義が呈されている上、ガザ地区南部の死者数についても「今週のガザ地区での死者数の65%が同地区南部での死者」という趣旨の当該期間中の死者数やその内訳が不明瞭な言い回しで、実態把握という面で問題がある。

 しかし、イスラエル軍による大規模な地上侵攻が猶予される間もガザ地区に対する砲撃や爆撃が続いていることも事実であり、24日~26日にかけてはハーン・ユーヌス市やラファフ県の各地のようにガザ地区南部の諸地域の施設や建物が攻撃されて多数が死傷している。上記の通り、イスラエル軍は自らがハマースの施設や要員とみなしたものならば正当な攻撃対象と考えており、攻撃の過程でパレスチナの民間人の犠牲を避けることは優先事項ではない。このため、ガザ地区南部はパレスチナ人や外国人、同地区で活動する諸機関にとって避難先や安全地帯と呼べるような場所とはなっていない。

 しかも、21日からガザ地区とエジプトとを結ぶラファフの通過地点から人道援助物資が搬入されるようになったが、現時点でガザ地区に到着した車両は74台に過ぎない上、燃料が搬入されていないことから、現地の需要を満たすには程遠い。攻撃や戦闘の危険性という面でも、物資の不足という面でも、ガザ地区全体の人道状況が急速に悪化していることに変化は見られない。

(協力研究員 髙岡 豊)

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