中東かわら版

№113 GCC:ユン韓国大統領のサウジアラビア、カタル訪問

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は2023年10月21~24日にサウジアラビアを、24~25日にカタルをそれぞれ国賓訪問した。最初の訪問先のサウジで、ユン大統領はムハンマド皇太子と会談し、最新の地域・国際情勢に加え、水素、スマートシティ、防衛産業、新興企業への投資拡大などについて協議した。また首脳会談に併せて、現代建設とサウジアラムコがガス処理プラント建設に関する契約(24億ドル)を締結した他、現代自動車とサウジアラビア公的投資基金(PIF)が電気自動車(EV)及びガス自動車(NGS)を製造する自動車工場の設立契約(5億ドル以上)に調印した。さらに、両国はクリーン水素分野でのパートナーシップ強化とプロジェクト開発の支援を目的とした「水素オアシス構想」に署名した。

 次の訪問先のカタルで、ユン大統領はタミーム首長と会談し、協力分野をこれまでのエネルギーや建設分野から安全保障や防衛産業などにも拡大するとともに、二国間関係を「包括的・戦略的パートナーシップ」に格上げすることで合意した。また、韓国・カタルのエネルギー協力の一環として、現代重工業とカタールエナジーは液化天然ガス(LNG)運搬船17隻の建造に係る契約(39億ドル)を締結した。その他、農業や文化事業、医療、金融といった分野での協力に関する12の覚書が調印された。

 

評価

 韓国は中東産原油・天然ガスの安定確保や中東での経済利益の拡大を目的に、湾岸諸国との結びつきを強めている。2022年、韓国の原油輸入量でサウジアラビアが第1位(総輸入量の33%)、天然ガス輸入ではカタルが第2位(21%)となり、韓国はエネルギー源の大半を湾岸諸国から輸入している。最近では、湾岸諸国が導入を検討する水素や電気自動車といった新領域分野で市場シェアの獲得に注力している。また、韓国の成長産業である武器輸出産業の顧客確保のため、湾岸武器市場への参入を狙っている。

 今般、ユン大統領がサウジ・カタルから国賓として招かれたことは、サウジ・カタルが韓国との関係強化を図っていく意志の現れである。韓国は官民一体で経済外交を展開しており、サウジに次世代エネルギーとして注目される水素分野での技術を、カタルには世界屈指のLNG造船技術をアピールした。こうした積極的な売り込みや高い技術力が、湾岸諸国側から一定程度評価されているため、韓国企業が他国よりも契約を勝ち得ているのだろう。

 韓国の国家主導型のビジネス活動はアラブ首長国連邦(UAE)でも行われ、韓国が2009年のUAE・アブダビの原子力発電所の建設契約を受注した際、李大統領(当時)のトップセールス外交が成功要因の1つに挙げられている。その後、韓国は原発事業で得た信用を土台に、今年1月にUAEから300億ドルに及ぶ大型投資約束を取り付け、今月16日には中東諸国とは初となる自由貿易協定として、UAEとの包括的経済連携協定(CEPA)の締結交渉を取りまとめた。

 韓国は現在、イランとは経済制裁に伴う資金凍結問題や韓国船籍タンカーの拿捕事件などを理由に二国間関係が著しく悪化し、イラン経済市場での販路拡大を断念せざるを得なくなっている。このため、湾岸市場の方に経済的活路を見出し、湾岸諸国の資金力を頼みの綱にしている。韓国の対湾岸関係はこの先、経済・エネルギー分野で培った信頼関係を更に発展させるべく、軍事協力分野でも関係強化が図られていくと予想される。

 

【参考】

高橋雅英「韓国の中東政策――経済・エネルギー関係と軍事的関与」『中東研究』第548号、2023年9月。

(主任研究員 高橋 雅英)

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