中東かわら版

№111 カタル・トルコ:ハマースの人質解放に関して前向きな見通し

 2023年10月25日、カタルのムハンマド・ビン・アブドゥルラフマーン首相兼外相とトルコのフィダン外相はドーハで共同記者会見を行い、現下のイスラエル・ガザ間の衝突への見方等について語った。とりわけ注目を集めたのは、ハマースが10月7日の奇襲で誘拐した人質の解放に関する説明である。ハマスは20日に米国籍女性2名、23日にイスラエル国籍女性2名を解放しており、これらはカタルの仲介を経てなされたとされる。これらについてムハンマド・ビン・アブドゥルラフマーン外相は、現在も人質解放に向けた交渉が進んでおり、これを経て望ましい結果が生まれるだろうとの見通しを示した。

 一方のフィダン外相は、ガザの人道状況においてカタルが建設的かつ無私の役割を果たしていると述べ、先日の人質解放におけるカタルの努力は称賛に値すると発言した。

 

評価

 人質解放の進捗は、イスラエルの地上侵攻の可能性やタイミングにも影響を及ぼすと考えられているため、諸外国からの関心も高い。カタルは米国からNATO外の最大のパートナーと位置づけられる一方、ハマースやターリバーンといった米国を敵視する勢力ともチャンネルを有するという、(自国への敵意が生まれる事態を防ぐ)ヘッジ戦略に基づいた外交を特徴とし、過去にもターリバーン・米国、イラン・米国間で人質解放や囚人交換を仲介した実績がある。今回もその強みを発揮して自国のプレゼンスを内外に示しつつ、見通しは不透明ながら、仮にイスラエルの地上侵攻を止める結果につながれば、地域の緊張緩和という点で大きな役割を果たすことになる。

 ドーハには1996年にイスラエルの貿易事務所が設立されたが、2000~2005年の第2次インティファーダ、2008~2009年のイスラエル・ガザ間の軍事衝突を経て閉鎖され、以降カタルはガザ地区での病院・教育施設の建設、公務員の給与支払いといった各種支援を続けてきた。こうした背景から、カタルは今次のイスラエル・ガザ間の衝突を受けて最も先鋭的なイスラエル批判を展開している国の1つに数えられる。しかしイスラエルはカタルをハマス支援国として強く非難することは避け、また地上侵攻への影響はさておき、人質解放におけるカタルの仲介を概ね歓迎している。たとえイスラエル批判を展開しても、イランとは異なり、カタルが米国との強固な関係を損なう行動をとる可能性はないとの一種の信頼があるためだと考えられる。

 トルコに関しては、カタル同様にハマースとのチャンネルを有し、今次衝突をめぐっても明確にイスラエル批判の立場を示している。カタルのような仲介役を担うことも不可能ではないと思われるが、トルコにとってカタルは政治・経済的な盟友であることから、あえて仲介外交の実績作りでカタルで競う野心はなく、むしろカタルの後方支援という役割を担うだろう。

(研究主幹 高尾 賢一郎)
(主任研究員 金子 真夕)

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