中東かわら版

№109 イスラエル・パレスチナ:ガザ地区の将来像は構想可能か?

 ガザ地区の情勢は、イスラエル軍による爆撃、封鎖で人道危機が深刻化し、同軍による地上侵攻も時間の問題と考えられる中、攻撃の停止や人道物資の搬入など緊急の課題への取り組みが軍事・外交場裏の課題となっている。しかし、これらはあくまで一時的なものであり、10月7日のハマースによる「アクサーの大洪水」攻勢開始以来の状況を踏まえたガザ地区の将来像を考えなくては当事者のいずれにとっても安定や恒常的な解決を得ることはできない。この問題について、2023年10月23日付『シャルク・アウサト』(サウジ資本の汎アラブ紙)は要旨以下の通り報じた。

 *イスラエル政府の報道官は、(ガザ地区の将来像について)「唯一明白なことは、同地区はこの戦争後ハマースの制圧下にはならないことだ」と述べた。ガザ地区の建築物の多くは、イスラエル軍攻撃により更地となり、ガザの当局の発表によると同地区の住宅の半数にあたる16万5000棟の建物が被害を受け、時これとは別に2万棟が完全に破壊されるか居住不能になるかした。一方、イスラエルは(ハマースの「殲滅」なり「破壊」という)目標が達成された後のガザの将来像を明らかにしていない。同政府の報道官は、「この件については複数のパートナーと複数の選択肢について協議している」と述べた。また、イスラエルのガラント国防相は長期的な目標として、ガザ地区の将来に対するイスラエルの責任を終わらせ、新たな安全保障状況を作ることだと述べた。イスラエルの外務省筋は、同国はガザ地区についての決定権を第三者に委ねることを望んでおり、エジプトがその当事者となるかもしれないと述べた。なお、エジプトは長年イスラエルから同種の提起をされているが、これを受け入れる保証を一切与えていない。

 *イスラエルの野党からは、パレスチナ自治政府(PA)をガザ地区に復帰させ、ヨルダン川西岸地区の被占領地の運営と同様にイスラエルとPAとで協力するとの提案が出ている。しかし、研究機関からは、PAはもともと広範な支持を得ておらず、イスラエルの侵攻後にPAがガザ地区に復帰して(住民に)敵視されることを避けるため、PAの復帰は考えにくいと指摘されている。

 *ガザ地区の国際管理の可能性も出ている。アメリカとイスラエルにとって望ましい選択肢は、アメリカやヨーロッパがガザ地区の運営を支援し、サウジが出資するPAも含む国際的な枠組みである。この場合、ガザ地区の諸事はアメリカが決定する。アメリカのバイデン大統領はガザ地区の将来計画を発表していないが、イスラエルに対し今後のことを検討するよう呼びかけている。

評価

 今般の記事を見る限り、イスラエル軍のガザ地区への地上作戦を抑止したり、作戦の規模や質に歯止めをかけたりするとの発想はいずれの当事者も持っていない。イスラエルの政府・軍は、自らの安全保障上の目的に沿ってガザ地区の様々な標的を破壊する決意でいるものの、その後のガザ地区の管理や経営にかかる負担や責任の一切を他の当事者に任せることを欲している模様だ。ガザ地区では、家屋の破壊や戦禍からの避難で大規模な強制移住が生じ、「第二のナクバ」となることが懸念されている。ナクバとは、悲劇を意味するアラビア語で、1948年の第一次中東戦争の際に多数のパレスチナ人が居住地を追われたことを指す。現在、ガザ地区の住民は何の展望も保証もないまま住処を追われており、短期的な人道問題として対処するだけでなく、彼らの将来になにがしかの見通しを示す長期的な対処や構想も必要である。

 ただし、エジプトを含むアラブ諸国が、イスラエルの安全保障上の目標を達成する過程で生じる、パレスチナ人の受け入れや定住のような負担、ガザ地区の管理のための経済的な負担を求められても、各国が積極的に応じるとは考えにくい。ガザ地区の将来についての構想がイスラエルの意向に沿うだけにとどまる場合、アラブ諸国がガザ地区の住民への同情や同胞意識に基づく短期的な人道支援や停戦呼びかけを越えて関与や負担を続けることは、各国の対面や世論に鑑みると難しい。

 より広範な国際的な枠組みの下で将来構想の提示や実践も、パレスチナでの戦闘についての国連安全保障理事会の機能不全に鑑みると円滑に進まない可能性が高い。そうした状況の中でも、日本は長年ガザ地区を含むパレスチナを支援し様々な事業に出資してきた経緯もあり、ガザ地区の将来についても相応の負担が期待されるであろう。短期的な停戦や人道支援で成果を上げるためにも、ガザ地区の将来についての長期的な構想を持つことが不可欠である。

(協力研究員 髙岡 豊)

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