中東かわら版

№108 トルコ:フィダン外相がイスラーム協力機構(OIC)で二国家解決に向けた「保障国」制度創設を提案

 2023年10月18日、フィダン外相は、イスラエルとハマースの軍事衝突を受け、サウジアラビアのジェッダで緊急開催されたイスラーム協力機構(OIC)でスピーチした。その発言概要は以下の通り。

  • 10月17日に発生したアハリ病院の爆発は、イスラエル軍のMK-84誘導爆弾によって爆撃された可能性が高い。イスラエルは471人が死亡した同病院攻撃後もガザへの砲撃を継続している
  • この攻撃を受けてトルコは10月18日から3日間、国民の服喪を宣言した
  • トルコはパレスチナ人の幸福と生存を保証し、恒久的な平和を保障するためのメカニズムの構築と実施を提案する
  • イスラエルや他の諸国は、パレスチナとの和平の遅滞が代償を伴うことを理解し、「イスラエルによる残虐行為、イスラーム諸国からの厳しい批判、世界の関心の低下、イスラエルの残虐行為継続」、という悪循環を断ち切らなければならない
  • パレスチナ和平を伴わない広範な地域計画は、イスラエルが望む安全保障をもたらさないことを認識しなければならない
  • イスラーム諸国は、東エルサレムを首都とし主権、独立、領土の一体性を持つパレスチナ国家が誕生するまで決意をもって行動すべきである
  • トルコは、今次会合の共同声明に、「占領国イスラエルによる、人道に対する罪を阻止するため、全加盟国が実行可能で効果的な外交、法的、強制的な措置を取ることを奨励する」との一文を加えることを提案する

 

評価 

 今般のフィダン外相の発言で注目すべき点は二つある。第一は、「パレスチナの恒久平和を保障するためのメカニズムを構築し、悪循環を断ち切る」という点だ。紛争の長期化で、イスラエルの行動に対するイスラーム諸国の反応が形骸化している状況を憂慮し、これまでのように単にイスラエル非難だけに留めず、地域諸国が連帯し責任を負う「保障国」制度の創設が必要との認識を示した。どの国がその役割を担うのかについて具体的な言及はなかったものの、同制度は、停戦に向けた過程で着手できる内容の一つとなり得る。

 第二は、「パレスチナとの和平を伴わない広範な地域計画」という点である。これは、イスラエルと中東諸国との関係改善、とりわけ直近のサウジアラビアとの国交樹立に向けた動きを指しているものとみられる。フィダン外相は、スピーチを通じてイスラエルの後ろ盾である米国への批判はもとより、イスラーム諸国とOIC、とりわけ湾岸諸国に対して今まで以上に積極的に関与するよう促した。誰しもが言葉では受け入れている「二国家解決」実現のためには、米国と同様、湾岸産油国も責任を負う必要があることを強調した。

 これまでの歴史や経緯を踏まえれば、「二国家解決」は非常に困難な道のりであることは間違いない。また、暴力の応酬が続く中で紛争当事者の妥協点を見出すことが容易でないことも明らかである。だが、かつてないほどイスラエル・パレスチナ情勢に対する国際社会の関心が高まる中で、「保障国」制度の創設は一つの解決の糸口となる可能性がある。 

(主任研究員 金子 真夕)

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