中東かわら版

№107 シリア・イラク:アメリカ軍の拠点複数が攻撃を受ける

 2023年10月19日、シリアとイラクでアメリカ軍の基地複数が相次いでロケット弾や無人機を用いた攻撃を受けた。攻撃を受けたのは、シリアとイラクとを結ぶタンフを占領するアメリカ軍のタンフ基地(シリアのホムス県)、ユーフラテス川左岸のコノコ・ガス田のアメリカ軍基地とウマル油田のアメリカ軍基地、ウマル油田とコノコ・ガス田とを結ぶガスパイプライン(シリアのダイル・ザウル県)、アイン・アサド基地(イラクのアンバール県)、ハリール基地(イラクのアルビル県)、バグダード空港付近のアメリカ軍基地(正確な場所不明)だ。このうち、タンフ基地、コノコ・ガス田基地、アイン・アサド基地、ハリール基地に対する攻撃について、「イラクのイスラーム抵抗運動」名義で攻撃を実施したと発表する声明や動画が出回った。

 アメリカ軍は、国境通過地点や油田・ガス田のようなシリアの要衝各所を占拠して基地を設けている上、シリアの石油資源をシリア国外に持ち出している。シリア政府は、このような行為を占領、資源の盗奪と非難している。また、イスラエル軍は10月12日にシリアのダマスカスとアレッポの両国際空港、14日にはアレッポ国際空港を航空攻撃し、両空港を一時使用不能にしている。  

評価

 「イラクのイスラーム抵抗運動」は、イラク国内でイランの支援を受ける民兵諸派の連合体として用いられる名称である。このため、今般の攻撃の少なくとも一部はイラクの親イラン民兵による作戦だということは確実だが、声明には攻撃を実行した具体的な組織名の記載はなかった。これまでも、アメリカ軍やイスラエル軍がシリア領内で「イランの民兵」やその施設を攻撃することに対し、シリアやイラクのアメリカ軍施設が砲撃を受けた事例は複数回ある。すなわち、この種の攻撃をシリア領に対するアメリカやイスラエルの攻撃に対するシリア・イラン側の反撃と考えることが可能だ。一方、反撃といっても、その規模や頻度はアメリカ軍の人員を死傷させない範囲にとどまっており、本格的な反撃や反占領武装闘争というよりはアメリカ・イスラエルに対する政治的なメッセージとしての意味合いが強い水準のものである。

 パレスチナでの「アクサーの大洪水」攻勢開始(10月7日)以来、イスラエルと周辺国、アメリカとイランとの緊張も高まっており、双方(とそれと連携する民兵)の軍事行動が大規模な衝突に発展することも懸念されている。シリア領への攻撃とそれに対する反撃という文脈では、諸当事者の間で一種のルールのようなものが成立しており、ここまでのところそのルールを著しく逸脱する行動は見られない。イスラエルによるシリア領への攻撃がより大規模になった場合には、シリアから長射程の対空ミサイルを発射し、イスラエル領内に落下させるといった攻防が予想される。イラク領内でも、アメリカ軍による「イランの民兵」幹部やそれを支援するイランの革命防衛隊の士官・将官の暗殺のような事態を悪化させる行動があった場合は、反撃としてイラン領からイラク領内のアメリカ軍基地へのミサイル攻撃が実施されることも考えられる。ただし、現時点では当事者のいずれもが、自らがこれまでの暗黙のルールを破って紛争を激化させたとの非難を浴びることは避けたいと考えている模様である。現在の状況は、紛争当事者の一部、あるいは全部が事態の激化と本格的な軍事対決を企画しているとしても、相手方に事態悪化のきっかけとなるような行動をとらせるように仕向ける挑発を繰り返している状況といえる。

(協力研究員 髙岡 豊)

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