中東かわら版

№106 エジプト:ガザへの人道物資搬入に合意

 2023年10月18日、エジプトのシーシー大統領はバイデン米大統領と電話会談し、エジプトとガザ地区間のラファフ検問所を開放し、トラック約20台分の人道支援物資を同地区に搬入することに同意した。エジプトはこれまでラファフ検問所を厳密には閉鎖していないが、イスラエルの砲撃により使用不可能であると主張してきた。このため、イスラエルもエジプト経由でのガザ地区への援助供与を原則的に認めているとされる。

 一方、バイデン大統領はハマースが同支援を妨害した場合、搬入は直ちに中断される点も強調した。また、19日もしくは20日に開始される搬入計画が成功すれば、エジプトが追加物資を搬入すると説明した。

  

評価

 イスラエルの封鎖によりガザ地区での生活環境が悪化する中、アメリカがエジプトとイスラエル間の仲介役を果たすことで、ラファフ検問所の開放に見通しが立った。ガザへの人道物資搬入が計画通りに進めば、アメリカがエジプトに幾度も要請してきた、外国籍の人々によるガザ退避に向けた合意も得られる可能性がある。ただ、ハマースが人道物資への搬入を妨害する事態となれば、外国籍の人々が地上作戦の開始前までに脱出できない恐れがある。なお、エジプトは他アラブ諸国と同様に、パレスチナ人の受け入れを断固として拒否しているため、ラファフ検問所の開放はガザの人道危機を一時的に緩和する程度にしかならないだろう。

 この先、エジプト国内での反イスラエル感情の更なる高まりが懸念される。ガザ情勢の悪化につれて、パレスチナ人との連帯を掲げるデモが活発化している。また、ガザ地区の病院爆破に関する報道や、イスラエルの攻撃によるエジプト人労働者の負傷が、反イスラエル感情に拍車をかけている。こうした状況を受け、イスラエル外務省がエジプト(並びにモロッコ)駐在外交団の退避を決定するなど、イスラエル権益に対する治安上の脅威が高まっていると見られる。シーシー大統領として、経済面で苦境に立たされているだけに、反同胞団・過激派対策で実現した治安の安定性を、12月の大統領選挙に向けたアピール材料に検討している。このため、ガザ情勢が国内治安の不安定化を引き起こすことを望んでおらず、引き続きイスラエルに自制を呼びかけていくだろう。

 

【参考】

「エジプト:ガザ人道回廊への難色」『中東かわら版』No.101。

「パレスチナ:ガザ地区での「人道危機」回避の試み」『中東かわら版』No.100。 

(主任研究員 高橋 雅英)

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