中東かわら版

№105 イスラエル・パレスチナ:再燃したガザ戦争#3――ガザ地区の病院爆破をめぐる非難の応酬

 2023年10月17日夜、ガザ北部にあるキリスト教系のアル・アフリ病院で爆発があり、多数の死者が発生したと報道された。病院の中庭で爆発があったとみられるが、死傷者数は曖昧でハマースは500人、APやロイターなどは200人から300人と発表している。爆発(爆撃)の詳細は18日にさらに明らかとなったが、アラブ諸国側はイスラエルを激しく非難している。

 ヨルダンのアブドッラー2世国王は、18日に予定されていたイスラエル訪問後、米国のバイデン大統領との4者会談(ヨルダンのアブドッラー2世国王、エジプトのシーシー大統領、パレスチナ自治政府のアッバース大統領)を中止した。同会談の中止は、アブドッラー2世国王とバイデン大統領が協議のうえ決定したものとみられる。

 結果として今次中東訪問においてバイデン大統領は、イスラエルのみを訪問して帰国することになった。

  

評価

 病院での爆発については、イスラエル軍はイスラーム聖戦機構の不良ロケット弾の落下と主張している一方、パレスチナ及び、他のアラブ諸国はイスラエルの攻撃と見なし、非難している。

 メディアでは、ガザ内外での監視カメラ映像やパレスチナ人が撮影した映像が報道されている。こうした映像を見る限り、ガザからのロケット弾発射後に病院で爆発が起きたようだ。イスラエル側は、爆発当時、イスラエル軍は病院のある地域で活動していなかったとし、10月7日から17日までの間に、ガザ内に落下したハマースのロケット弾は450発だと発表している。パレスチナ側の手製ロケット弾には不良品が多く、一定の割合でガザ域内に落下している。またイスラエル軍はドローンの映像を公表し、イスラエル軍の空爆であればできる穴(クレーター)がないこと、レーダーでロケット弾発射を確認し、イスラーム聖戦機構メンバー間の通信を傍受しているなどと爆撃を否定している。

 ロケット弾発射を撮影した動画映像が複数あることから、イスラエル軍の主張には一定の合理性及び、ロケット弾の落下説には一定の説得力がある。他方、大きな疑問点は、パレスチナ側の手製ロケット弾の爆発力はさほど強力ではない点である。ロケット弾の落下で百人単位の死者が出る可能性は低い。他方、イスラエル軍が使用する爆弾であれば、その程度の威力はあるだろう。映像を見る限り爆発は1回であり、複数回ではない。不良ロケット弾が一度に数十発、同じ病院に落ちる可能性も低い。仮に、イスラエル軍の主張するようにイスラーム聖戦機構のロケット弾が病院に落下して数百人の死者が出たのであれば、これまでと比較して驚異的に爆発力を増大させたロケット弾をイスラーム聖戦機構は開発したことを意味する。

 当面は、病院の爆発による死傷者数の確認や病院の建物の被害などが明らかになるのを注視するしかないだろう。

 ガザ北部の病院での爆発の原因が何であれ、爆撃したのが誰であれ、その爆発でバイデン大統領の中東訪問が大きな影響を受けたことは確実だろう。

   

【参考】

「イスラエル:司法改革をめぐりネタニヤフ政権と野党・法曹界・学生が対立」『中東かわら版』2022年度No.133。

「イスラエル・パレスチナ:再燃したガザ戦争#1――イスラエルはハマースとの戦争を宣言」『中東かわら版』No.94。

「イスラエル・パレスチナ:再燃したガザ戦争#2――地上戦開始前の状況」『中東かわら版』No.102。

 

(協力研究員 中島 勇)

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