中東かわら版

№99 エジプト:イスラエルからのガスパイプラインの停止

 2023年10月10日、米石油会社「シェブロン」は、イスラエル・エジプト間の東地中海ガス(EMG)パイプラインを通じたエジプト向け天然ガス輸出を停止し、ヨルダンを経由する代替パイプラインで供給することを発表した。この背景には、イスラエルとパレスチナ人武装勢力間の衝突によるガザ情勢の悪化がある。EMGパイプラインは、イスラエル沖のレバイアサン・ガス田で生産された天然ガスを、イスラエル南部の町アシュケロン(ガザ地区の北約10キロ)からエジプト・シナイ半島の町アリーシュまで輸送し、エジプト国内市場に供給している。

 ガザ情勢に関連するイスラエルの天然ガス動向では、イスラエル・エネルギー省が9日、安全性の懸念を理由に南部沿岸のタマル・ガス田の生産停止も発表した。同油田の天然ガスの一部もエジプトやヨルダンに輸出されている。

評価

 エジプトは2020年1月からレバイアサン・ガス田とタマル・ガス田で生産されたイスラエル産ガスを輸入している。地中海で唯一の液化天然ガス(LNG)施設を擁すエジプトは、2022年6月にイスラエル及びEUと調印した覚書にもとづき、輸入したイスラエル産ガスをエジプトのLNG施設で液化した後、タンカーで欧州諸国に輸出する計画を進めている。だが、今回のEMGパイプラインの操業停止とタマル・ガス田での生産中断が長期化し、イスラエルからエジプトへの輸出量が減少する事態となれば、エジプトは国内供給を優先せざるを得ず、ガス収入を拡大させる好機を失う恐れがある。エジプトは東地中海で天然ガスの一大供給ハブ国になることを目指している点から、ガス供給国としての地位を高めるためにも、ガザ情勢の安定化を急務と捉えているだろう。

 今般のガザ情勢悪化は、イスラエル周辺のガス田開発全体にも悪影響を及ぼすと考えられる。イスラエルとレバノンのヒズブッラー間の軍事衝突も起き、両者の対立激化がイスラエル権益への攻撃の活発化につながると予想される。イスラエルとレバノンの係争中の海域には、イスラエルが開発を進めるカリシュ・ガス田(ハイファ沖80キロ)がある。同ガス田の開発事業がヒズブッラーによる更なる海上攻撃を受けるとなれば、中断に追い込まれる可能性がある。

 

【参考】

「レバノン:ヒズブッラーの海上戦力増強」『中東かわら版』No.12。

「イスラエル・レバノン:海洋境界線について暫定合意」『中東かわら版』2022年度No.100。

「イスラエル・エジプト:欧州への天然ガス輸出に関する協力合意」『中東かわら版』2022年度No.37。

(主任研究員 高橋 雅英)

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