中東かわら版

№98 アフガニスタン:西部ヘラート州で地震が発生、被害が拡大

 2023年10月7日、西部ヘラート州でマグニチュード6.3と推計される地震が発生した。震源は、州都ヘラート市から北西に位置するズンダ・ジャーン郡と見られ、倒壊した家屋の下敷きになった者も多く、現時点(10月10日)で救命作業が続けられている。10日付国連人道問題調整事務所(OCHA)の状況報告によれば、被災者数は1万2110人(1730家族)である。同報告によると、最も被害が大きいと見られるズンダ・ジャーン郡では、死者数1294人、負傷者数1688人が確認されており、ほぼ全ての家屋が損壊した。現地報道によると、余震が今も続いていることから被害は更に拡大する見込みであり、食料やシェルターの他、衣類や毛布等の緊急支援が求められる。ターリバーンのムジャーヒド報道官は8日、2053人が死亡したと発表しており、死者数は2400人を超えるとの一部報道も見られる。なお、ターリバーン発表の数値が実態と違ったり、状況の流動性に鑑みて被害者数が変動したりする可能性がある点に充分な留意が要る。

 地震発生を受けて、9日、ターリバーンはバラーダル副首相代行(経済担当)を現場に派遣し、対応に当たらせた。同副首相代行は記者会見において、アフガニスタン・イスラーム首長国(注:ターリバーン)は救命活動に務めており、全ての被災者に対し平等に人道支援を届けると発言した。また、同副首相代行は国際援助機関に対して支援を送るよう求めた。

 各国からもお見舞いの意が表明された他、現時点までに、トルコやサウジアラビアからの人道支援物資がアフガニスタンに届けられた模様である。また、EUは350万ユーロの人道支援を決定したと報じられている。日本政府も、国際赤十字・赤新月社連盟の要請を受けて、JICAを通じて緊急援助を行うことを決定した。

評価

 現地の映像を見る限り、被災地では多くの家屋が全壊し、瓦礫の下敷きになった負傷者が多くいると見られることから、依然として救命活動が必要であり、食料やシェルター等の緊急人道支援も要する状況である。アフガニスタンの農村部では、日干し煉瓦を積み上げて、天井の梁には木材(一部地域では煉瓦と泥で代替)を用いた耐震強度の低い家が多く、こうした点が被害が拡大した要因に挙げられる。現在のアフガニスタンの実効支配勢力であるターリバーンが、被災者支援、被災地の復興に対して、どれほど実行的に取り組めるかが試される。

 こうした中、ターリバーンと諸外国との関係にも注目すべきである。現在までにターリバーンを政府承認している国は一つもない。また、米国はアフガニスタン在外資産を凍結している。ターリバーンとしては、被災者支援に当たって人民からの信頼を得つつ、こうした各国による孤立化政策や不当な経済制裁が被害拡大を助長していると主張し、自らを取り巻く状況を改善させる機会としたいところだろう。一方の諸外国側には、被災者に対する人道支援を行いたい意向が見られるものの、カウンターパートであるアフガニスタンの実効支配勢力(ターリバーン)を国として認めていない状況がある。つまり、いずれの国も、ターリバーン暫定政権と交換公文等を交わすことはできない。こうした状況から、諸外国は、二国間支援ではなく、国連、援助機関、NGOを介した多国間支援や技術協力を行うことになると考えられる。各国が直面するこうしたジレンマは、現場における人道支援の提供にも否定的な影響を及ぼす可能性がある。

 

【参考】

「アフガニスタン:南東部でマグニチュード5.9の地震の発生と国内外の反応」『中東かわら版』2022年度No.39。

(研究主幹 青木 健太)

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