中東かわら版

№95 エジプト:イスラエル人観光客への発砲事件

 2023年10月8日、北部アレクサンドリアでエジプト人警官の1人がイスラエル人団体旅行グループに発砲し、イスラエル人観光客2人とエジプト人旅行ガイド1人が死亡した。実行犯は銃撃後、拘束された。

 同事件を受け、イスラエルの国家安全保障会議(NSC)が開催され、イスラエル首相府はエジプトに滞在しているイスラエル国民に対し、直ちに出国するよう求めた。また、在エジプト米国大使館も、発砲事件がイスラエルとパレスチナ人武装勢力間の衝突に関連する可能性に言及し、エジプト居住のアメリカ国民に安全のための予防措置を講じるよう勧告した。

  

評価

 エジプト治安当局のイスラエル人に対する攻撃は今年6月にも起きており、エジプト国境警備員1人がシナイ半島からイスラエル領内に侵入し、イスラエル軍に向けて発砲した(イスラエル軍兵士3人が死亡)。また、今回の発砲事件がパレスチナ情勢が緊迫化する状況下で起きた点を踏まえると、警官による発砲は偶発的ではなく、イスラエル人を明確に標的にしたものであったと考えられる。このように、エジプト治安当局内で反イスラエル感情が存在している事実が明るみになったことは、エジプト・イスラエル関係の冷え込みにつながる可能性がある。

 イスラエルとパレスチナ人武装勢力間の戦闘が激化する中、この先、エジプトが停戦の仲介役を果たせるかが注目される。エジプトは2021年5月や今年5月のガザでの衝突時に、イスラエル・パレスチナ人武装勢力の双方との対話チャンネルを利用し、停戦を受け入れるよう説得するなど、パレスチナ情勢の鎮静化に重要な役割を担ってきた。

 しかし、今回はイスラエルの戦争宣言により、イスラエルによる報復攻撃がかつてない規模に発展すると予想され、イスラエル側がエジプトの要請に応じて自制する可能性は低いと見られる。他方、ガザ情勢の悪化はエジプトの安全保障に直接影響を及ぼすことから、エジプトとしては早期の停戦実現に向けて動かざるを得ないだろう。

 

【参考】

「エジプト:イスラエル軍との銃撃事件」『中東かわら版』No.39。

「イスラエル・パレスチナ:エジプト仲介で停戦合意」『中東かわら版』No.23。

(主任研究員 高橋 雅英)

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