中東かわら版

№82 アフガニスタン:中国新任大使の信任状奉呈

 2023年9月13日、新しく着任した中国の赵星(Zhao Xing)駐アフガニスタン大使は、ターリバーン暫定政権のハサン・アーホンド首相代行に信任状を奉呈した。儀仗隊による栄誉礼で盛大に迎え入れられた同大使は、信任状奉呈後、ハサン・アーホンド首相代行、及び、モッタキー外相代行と会談した。ターリバーン大統領府発表によると、赵星大使は、中国はアフガニスタンに内政干渉する意図を持たないと説明した。一方のハサン・アーホンド首相代行は、同大使着任が両国の外交関係の発展に資することを期待すると述べた。中国外交部は、今回の着任は通常の人事ローテーションに基づくものとし政府承認を意味しないとの立場を示した。

 

評価

 信任状奉呈とは、通常、派遣国と接受国が国交を有していることを前提として、着任した大使(元首の名代)が元首から託された信任状を、接受国の元首に提出する儀礼である。今回、中国はターリバーン暫定政権を政府承認しないながらも、新任大使に信任状をターリバーン暫定政権の首相代行に奉呈させた。これは、いわば「事実上の承認」と呼び得るもので、外交儀礼の観点からは異例の対応といえるだろう。

 中国側の視点から見ると、今回、ターリバーン暫定政権と対等な立場で関係を構築する意思を明確に示すことで、同暫定政権からの信頼を獲得する狙いがあった可能性がある。前任の王愚大使は2019年に着任し、2023年8月に任期を終えていた。ターリバーン復権以降、中国を含む外国大使が同暫定政権に信任状を奉呈するのは初のことであった。また、中国として、諸外国、特に、2001~2021年の間、アフガニスタンでの民主的国家建設を主導したアメリカを念頭に、今次事案を見せつけることで地域における勢力図の変化を誇示する意図を持っていた可能性もある。実際、最近では、中国の中東における政治面での存在感は増大しつつある。

 ターリバーン側の視点から見れば、治安回復等の成果をアピールしつつ、諸外国は自勢力と対話すべきと一貫して主張してきた中で、中国が今次の対応を通じて友好的立場を示したことは自らを取り巻く対外関係の改善に向けて大きな一歩だといえる。これを良き前例として、ターリバーンは、他国にも積極的な関与を呼びかけるだろう。

 他方、今次の信任状奉呈を以て、アフガニスタンを取り巻く国際的状況が急激に変化したというわけではない。むしろ注目すべきは、今次事案が、アフガニスタンが歴史を通じて域外大国からの影響を強く受けてきたことを示している点である。近現代を通じ、英国、ソ連、アメリカ等時々の超大国からの介入と干渉を受け、現在は中国から高い関心を向けられている。国際関係におけるアフガニスタンが置かれた立場は、時代を経てもなお大きく変わっていない。

(研究主幹 青木 健太)

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