中東かわら版

№81 リビア:東部での大洪水、「1国2政府」の弊害

 2023年9月10~11日、地中海で発生した暴風雨「ダニエル」がリビア東部に襲来し、ベンガジやダルナといった各都市で民家や道路が損傷した。特にダルナでは、ダム2基が決壊したことで大洪水が発生し、同市の4分の1が流され、消失したとされる。ダルナでの被害は、死者数が5300人以上、行方不明者が1万人にのぼる見通しである。

 こうした状況下、各国が救出支援に動き出している。アラブ首長国連邦(UAE)は捜索・救助チームを乗せた輸送機を東部ベンガジのベニーナ空港に派遣し、またカタルも野戦病院の機材を積んだ貨物機を同空港に送った。加えて、エジプトも医薬品、食料、援助活動に必要な装備を備えた救助隊を乗せた航空機3機を派遣したほか、エジプト軍代表団が被災者支援の調査に目的に、リビア入りした。

 なお、リビア情勢は2014年夏より続く紛争の影響により、「1国2政府」状態となっており、東部地域は首都トリポリ拠点の「国民統一政府(GNU)」とは異なる、「東部政府」が管理下に置いている。東部政府は、正統な議会「代表議会(HOR)」やハフタル総司令官率いる「リビア国民軍(LNA)」の支持を受けている(下図)。

 

図 リビア勢力図と暴風雨の被害地域

 

(出所)イタリア国際政治研究所(ISPI)作成のリビア勢力図(2020年10月の停戦合意時)をもとに筆者作成。

  

評価

 リビア政治の「1国2政府」化は2014年7月の紛争発生以来、たびたび見られてきた。2021年3月に統一政府GNUの誕生を受け、一時的に解消されたものの、その後2022年3月に政治的対立を理由に再び「1国2政府」の状態に戻り、統一政府の再発足が遠ざかっている。また、リビア国内の分断に沿って、主にエジプトやUAEが東部勢力を、カタルやトルコが西部勢力を支援してきた経緯もあり、諸外国の介入がリビア紛争解決の阻害要因となってきた。

 こうした「1国2政府」下において、東部地域で大規模災害が生じた。「東部政府」は災害対応能力が限られており、また国際的に未承認の政府であるのを理由に、国際社会への支援要請も出遅れている。一方、諸外国は国連承認の政府、GNU側に哀悼の意を表明するとともに、支援の申し出を行っているが、GNUが管轄地域外の東部地域に救出部隊の派遣や支援物資の輸送をどの程度実行できるのかは不確かである。東部地域への支援は国連や国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)経由で実施できるものの、リビア国内勢力や諸外国の利害対立で長期化したリビア紛争やそれに伴う「1国2政府」状態がこの先、災害支援の弊害となる可能性は留意すべき点である。

 

【参考】

「リビア:東部の議会が新政府を承認、再び「1国2政府」へ」『中東かわら版』2022年度No.123。

 

(主任研究員 高橋 雅英)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP