中東かわら版

№79 アフガニスタン:パキスタンとのトルハム国境が封鎖、両国間の緊張が高まる

 2023年9月6日、アフガニスタン・パキスタン両国を隔てるトルハム国境において、両国国境警備隊による銃撃戦が発生した。これを受けて、同国境は一時的に封鎖された。国境封鎖の継続を受けて、アフガニスタン外務省は9日に声明を発出し、パキスタンによる国境封鎖措置に反対の意を表明するとともに、収穫期を迎えたアフガニスタン農産物の輸出を妨げるパキスタン政府の対応を強く非難した。また、ターリバーンは同声明で、6日の国境付近での治安事案において先に攻撃を仕掛けたのはパキスタン軍だと主張した。これに対し、パキスタン外務省は11日、アフガニスタン暫定政権(注:ターリバーンを指す)が、パキスタン領内に人工建造物を建設したと述べ、ターリバーンが先に発砲したと主張した。

 

評価

 アフガニスタンにとり、パキスタンは輸出第1位、輸入第3位の重要な貿易パートナーであり、トルハム国境封鎖の経済的影響は大きい。パキスタンが今次措置を講じた背景には、近年、ターリバーンに対する不満を強めていたことがある。パキスタン国内では、パキスタン・ターリバーン運動(TTP)による攻撃が増加傾向にあり、パキスタン当局はTTPがアフガニスタン領内に聖域を得て、米軍が残した兵器を入手し攻撃していると見ている(注:米政府は兵器の流出を否定)。こうした経緯から、パキスタンはターリバーンに対し、アフガニスタン領をTTPに使用させないよう再三要求してきた(『中東かわら版』2022年度No.149参照)

 こうした中、今次事案と同日(6日)発生した、北西部ハイバル・パフトゥンフワー州のチトラールでの治安事件も影響を与えていると考えられる。国境での衝突が発生したその日、チトラールでも、複数のTTP戦闘員がパキスタン軍の哨戒所を襲撃し、交戦の末、パキスタン兵士4人が死亡、武装勢力12人以上が死亡する事件が発生した。同事件によって、パキスタン側の不満が爆発したと考えられる。なお並行して、パキスタン領内でのアフガニスタン難民に対する取締りも強化されている模様である。

 一方のターリバーンは、同国の領土を他国に危害を加えるために使用させることはないと主張し続けている。2021年8月の政権奪取を経て、ターリバーンは外国軍の占領から解放されようやく自由と独立を手に入れたと認識しており、次第に独自路線を強めてもいる。こうした事情から、アフガニスタン側も独自の主張を押し通そうとするだろう。

 このように両国間には課題が多い一方で、強固な経済・貿易関係もあり人の往来も活発であるため、対話を通じて国境を再開させることが重要である。TTPの活動抑え込みにおいて、ターリバーンが如何にパキスタンと協力できるかが一つの焦点となるだろう。他方、実際のところ、ターリバーンとTTPは長年共闘してきた間柄であり関係断絶は困難であるため、両国関係の完全修復には時間を要する可能性がある。

(研究主幹 青木 健太)

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