中東かわら版

№78 エジプト:エチオピアのダム貯水に反発

 エジプトとエチオピアが、2011 年にエチオピアで始まった「グランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダム(GERD)」建設に伴う、ナイル川の水資源をめぐって対立する中、2023年9月10日、エチオピアのアビー首相がGERDへの4回目貯水の完了を発表した。

 これを受け、エジプト外務省は、ナイル川下流域に位置するエジプト及びスーダンとの合意なく、エチオピアが一方的なダム貯水措置を継続したことは違法行為であると非難した。国土の9割が砂漠であるエジプトにとって、ナイル川からの水供給は安全保障上の生命線であるため、エジプトはエチオピアによるダム貯水がエジプトへの流水量の減少につながることを強く懸念している。

 

評価 

 エチオピアのアビー政権はこれまでもGERD貯水を3度(2020年7月、2021年5月、2022年8月)にわたり実施してきた。一方、今年7月に4年振りに実現したエジプト・エチオピア首脳会談に基づき、GERDの運用に関する最終合意に向けた交渉が開始され、GERD問題解決への期待が高まっていた。しかし今般、エチオピアが貯水を決行したことで、同交渉プロセスは頓挫する可能性がある。

 エジプトは、2015年3月にエチオピア及びスーダンと調印したGERD問題の平和的解決に向けた「原則合意」を口実に、エチオピアの一方的なGERD運用に歯止めをかけようと試みてきた。しかし2018年に発足したアビー政権が同合意を無視する形で、GERD貯水の既成事実化を図っている。エチオピアは、水力発電としての役割を担うGERDは電力問題の解決や経済発展にとって極めて重要なものだと捉えており、エジプトとスーダンの水利権を損なうものではないと主張することで、GERD運用を正当化している。

 エジプト・エチオピア間の緊張が高まる状況下、第三国がGERD問題に仲介役に乗り出すかが注目される。エジプトはこれまで国連安全保障理事会やアラブ連盟にエチオピアの一方的なGERD運用を問題提起してきたが、GERD問題はナイル川流域国のみ関係する点から、第三国が同問題に介入する兆しは見えなかった。他方、エジプトとエチオピアは2023年8月に南アフリカで開催された第15回BRICS首脳会談で加盟の招待を受け、2024年1月よりBRICS加盟国として協調していく立場となる見通しだ。この点より、BRICS間の結束を強める上で、両国と良好な二国間関係を持つロシアや中国が、エジプト・エチオピア関係改善に向けて動き出す可能性もあるだろう。

 

【参考】

「エジプト:エチオピアとの首脳会談、スーダン近隣諸国首脳会議の主催」『中東かわら版』No.57。

「中東:BRICSへの関心と南アでの首脳会談への参加 #2」『中東かわら版』No.71。

「エジプトの対UAE関係 ――経済支援と東アフリカ情勢での競合――」『中東分析レポート』T23-04。※会員限定。

(主任研究員 高橋 雅英)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP