中東かわら版

№73 アフガニスタン:米軍撤退から2年

 2023年8月30日、米軍のアフガニスタン撤退から2年が経過した。同日、アフガニスタン戦争終結から2年目を迎えるに当たり、バイデン米大統領は声明を発出し、アフガニスタン戦争で米軍人2461人が死亡、2万744人が負傷したと述べ、米国の安全を護るために犠牲となった人々に哀悼の意を表明した。また、同大統領は、2021年8月以降の国外退避ミッションによって12万人を救出したと発表した上で、米国に新たに移住したアフガニスタン人11万7000人に歓迎の意を示した。その一方で、将来の米国の対アフガニスタン政策に関して、同大統領は、米国はアフガニスタンに恒久的なプレゼンスを置かずにテロリストに対し行動を取ることができる、祖国を防衛するため活動を続ける、と述べるに留めた。

 ターリバーンは米軍撤退2周年に当たり声明を出さず、また大規模な式典も開催しなかった。一方で、8月15日のターリバーンによるカーブル掌握、及び、8月19日のアフガニスタン独立104周年は大々的に祝った。8月15日、ターリバーンはアフガニスタン・イスラーム首長国名義の声明を発出し、カーブルでの勝利について全ての国民に祝意を述べたい、占領に対する20年間のジハードの勝利はアフガン人民だけでなく全てのイスラーム諸国にとっての栄誉だとした。また、ターリバーンは、完全なるイスラーム統治の実現に向けた決意を表明するとともに、全土の治安が回復したことを称賛し、今後如何なる外国勢力による祖国の独立と自由への脅威も撃退すると述べた。

 

評価

 2001年当初、アフガニスタン戦争は、米国の「アフガニスタンを再びテロの温床としない」との強い意志と指導力によって始められた。しかし、20年の時を経て、軍事力で掃討したはずのターリバーンが再び実権を掌握することとなった。こうした状況の中で、米国はターリバーンとの距離感を計りかねており、新たな現実に対応したアフガニスタン政策を打ち出せていない。米国は現在までカーブルの大使館を再開させておらず、また、特にターリバーンによる女性の人権抑圧を問題視し、多くの改善点を要求している。それらには、諸民族・政治派閥を包摂した政権の成立や、テロ対策へのコミットメントも含まれる。同時に、米国はターリバーン復権以降、23億5000万ドルの対アフガニスタン人道支援を行っており、依然として最大のドナー国でもある(2023年7月30日付米アフガニスタン特別復興査察官報告書)。バイデン大統領は本年6月、米国がアル=カーイダの撃滅に向けて、ターリバーンから協力を得ていることも示唆している。過去の経緯からアフガニスタン情勢に深く関わった米国が、状況の改善に向けて責任ある行動を取れるかは、将来の安定化を見る上で重要であろう。

 また、米軍撤退から2年を経たアフガニスタン情勢であるが、平和と安全が回復した一方で、人権が制限された、いわば両者がトレードオフされた関係にある。ターリバーンは、女子中等教育の制限(2022年3月)、ヒジャーブ着用の義務化(同年5月)、女子大学生の通学制限、女性NGO職員の就労制限(ともに同年12月)、女性国連職員の就労制限(2023年4月)、女性向け美容院の営業禁止(同年7月)等、累次にわたって女性の社会生活・教育・就労に厳しい制限を加える施策を打ち出してきた。こうしたターリバーンによる統治に対し、欧米のみならずイスラーム諸国からも非難の声が挙げられている。一方で、ターリバーン復権以降、全土で治安が回復し、麻薬問題への厳正な対応等で着実に実績が上がっていることも事実である。この意味では、現地の状況が改善した/悪化したとの評価は、何を見るかによって変わる点に充分な留意が要る。

 こうした中、経済的問題の解決が急務であり、この点での改善がなされるか否かは、今後のアフガニスタン情勢の安定化を見る上での焦点となる。国連の推計では、3000~4000万人と言われる全人口の内、2440万人が人道支援を必要とするとされており、日々食べる物にも欠く人々が多数いる状況が常態化している。ターリバーンが農業や天然資源開発を含む包括的な経済政策を実行できるか、諸外国がアフガニスタンに対する制裁を解除できるか、は着目点となる。

 復権から時を経て、ターリバーンは自信を深め、次第に独自路線を取り始めているようである。カタルやイスラーム協力機構(OIC)等を中心に、諸外国としては行動変容を促すべく外交ルートを通じて働きかけを続ける必要があるだろう。そうした状況にあって、軍事・政治的なターリバーン優位の現状を覆すような変動は、諸外国からの強い介入と干渉が起こるか、あるいはターリバーン内部での不和が拡大しない限りは、近い将来に起こる可能性は低く、基本的にはステータス・クオの中で事態は推移してゆくものと考えられる。

 

【参考】

「アフガニスタン:ターリバーンが米国とドーハで協議」『中東トピックス』T23-04【会員限定】。

「アフガニスタン:米国・ターリバーン間協議に見る双方の思惑」『中東かわら版』2021年度No.68。

「アフガニスタン:アフガニスタンからの米軍撤退が完了」『中東かわら版』2021年度No.56。

「アフガニスタン:アフガニスタン政府が崩壊」『中東かわら版』2021年度No.50。

(研究主幹 青木 健太)

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