中東かわら版

№72 イラン:BRICS新規加盟発表に対する国内の反応

 2023年8月24日、南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領はヨハネスブルグで開催された第15回BRICS首脳会議で、イランを含む6カ国(他に、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、サウジアラビア、UAE)のBRICS新規加盟と、これらの国々の2024年からの正式加盟を発表した(詳細は『中東かわら版』No.71参照)。これに対し、イラン国内では様々な反応が見られた。

 8月26日付朝刊各紙は、BRICS新規加盟発表を大々的に報じた。『イラン』紙(政府系)は、「新興経済大国クラブの中のイラン」との見出しで、ライーシー大統領が中国の習国家主席、インドのモディ首相、ブラジルのルーラ大統領らと握手する様子を1面で報じた。また、センセーショナルな報道ぶりで知られる『ケイハーン』紙(保守強硬系)は、「イランのBRICS加盟は米国からの制裁への一撃だ」と1面で伝えた。『ハムシャフリー』紙(都市中間層向け大衆紙)は、「懇願の外交を越えて」との見出しで、ザリーフ前外相がP5+1の外相らと居並ぶ写真の入った額縁が壊れた様子とともに、BRICS首脳会議の記念写真が入った新しい額縁を壁に飾る様子を報じた。

 また、8月29日、ライーシー大統領は国内外メディア向けの記者会見で、「BRICSや上海協力機構(SCO)のような連合は、イランの経済の潜在力を開花させるため、また西側の単独覇権主義に対抗するための絶好の機会である」と述べた。同大統領は同時に、西側との制裁解除に向けた交渉から離脱する予定はないとも発言した。

 翌8月30日、ハーメネイー最高指導者はライーシー政権閣僚らの前で演説した際、ライーシー政権の外交政策について言及し、近隣重視外交は「非常に良い」と称賛し、近隣諸国とは係争を持つべきではない、もし係争があるならば協力する方向に切り替える必要があると発言した。また、同師は、イランのBRICSとSCOへの加盟は、諸外国がイランの重要性に鑑みて関係を良好にする必要性を認めたためであると述べ、これを歓迎した。

 

評価

 中東諸国がBRICSに寄せる期待には、多極化する世界を象徴する新しい多国間枠組、ひいてはその人口や経済力を踏まえての新たな市場の開拓といったものが挙げられる。これらについてイランも同様だが、同国には西側中心の現行の国際秩序へのカウンターとして捉えている様子が強く見られる。この背景には、イランの置かれてきた国際的状況と歴史的経緯がある。

 2018年5月、トランプ前米政権は核合意から単独離脱し、イランに対し「最大限の圧力」キャンペーンを科した。これにより、イランは国際送金網から切り離され、厳しい金融・石油取引制限を加えられることとなった。こうした事情から、イランは、失業率の増加、インフレ、通貨の暴落等、財政的に厳しい状況に置かれた。この反動として、イランは制裁の「無効化」を合言葉に、中国、ロシア、近隣諸国、アジア、南米、アフリカ、イスラーム諸国等との全方位外交を推し進め、貿易量を徐々に回復させるとともに、原油輸出量を増加させてきた。つまり、2021年8月に成立したライーシー政権は、欧米諸国の対応如何に拘らず自活できる体制作りに精力的に取り組んできたということだ。

 これは、米国から科された経済制裁に対する反応であるとともに、国際協調路線を敷きながらも制裁解除を実現できなかったロウハーニー前政権の失敗からの教訓でもある。ライーシー政権の「バランスの取れた外交」「近隣重視外交」には、前政権が取った欧米偏重路線の失敗を批判する意味合いも含まれており、多分に同国の内政事情を反映したものでもある。加えて、イラン国内では、昨年9月以降のヒジャーブ強制着用に対する国民の反感が強まっており、民衆の体制に対する不満が嵩じる危険性が燻っている。また、民衆の経済状況の悪化に対する不満も根強い。2024年3月には議会選挙が、2025年中頃には大統領選挙も予定される。そうした状況の中で、イラン体制指導部としては、欧米との核交渉からは足抜けせず、同時に、外交成果を喧伝することで国民の視線を逸らせつつ、友好国との関係強化も同時に図る多角化戦略を講じているのだろう。総じて、イランは、他の中東諸国と似た期待をBRICSに寄せる一方で、米国へのカウンターや第13期(ライーシー)政権による成果のアピール材料としての役割もBRICSに併せ持たせている。

 

【参考】

「中東:BRICSへの関心と南アでの首脳会談への参加 #2」『中東かわら版』No.71。

「中東:BRICSへの関心と南アでの首脳会談への参加 #1」『中東かわら版』No.69。

(研究主幹 青木 健太)

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