中東かわら版

№69 中東:BRICSへの関心と南アでの首脳会談への参加 #1

 2023年8月22日、第15回BRICS首脳会談が南アフリカのヨハネスブルクで開幕した(24日に閉幕予定)。メンバー国であるブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの他、アフリカ、中東、東南アジア等から40カ国前後の参加が報じられている。ロシアを除くメンバー国、及びアフリカ諸国からは首脳級が参加し、他の国々も一様にハイレベルを派遣している様子がうかがえる。

 これまで、中東諸国でBRICSへの加盟に関心を有していると伝えられてきたのは、アルジェリア、イラン、エジプト、クウェイト、サウジアラビア、チュニジア、トルコ、バハレーン、パレスチナ、UAEである(トルコ、チュニジアを除き、既に正式に申請済と言われている)。また南アフリカ側によれば、現時点でこれらを含む22カ国が加盟申請を予定しているという。

 上記諸国の内、サウジからはファイサル・ビン・ファルハーン外相が参加、イランからはライーシー大統領が参加予定との報道が見られる。

 

評価

 BRICSはブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカの頭字語(アクロニム)で、今後の経済成長が見込まれる主な新興諸国をまとめて指す語として、2001年にゴールドマン・サックス・アセット・マネージメント社のジム・オニール会長(当時)が用いたことで普及した。当初、南アフリカは含まれず、BRICないしBRICs(sは複数形を意味する)との表記も見られたが、2011年以降は同国の頭文字を含む形でBRICSと記す。

 上記5カ国は2000年代前半に関係強化を進め、IBSA(インド・ブラジル・南アフリカ)やBASIC(ブラジル・南アフリカ・インド・中国)といった政府間の協力枠組が誕生した。BRICSはこの延長上に位置づけられる。ハイレベル会談を重ね、2009年には初となる首脳会談を開き、BRICSは徐々に主体性を伴った共同体として機能し始める。2013年には上海を本部とする新開発銀行(New Development Bank)の設立に合意し、各国の拠出により準備金1000億ドルを擁するに至った。この間、2012年に中軸であるロシアと中国でプーチン、習近平という強いリーダーが誕生し、拡張主義的な外交政策を掲げたことは重要である。

 一方、中東諸国側はBRICSにどのような関心を抱いてきたのか。BRICSについては、①米国の一極支配への対抗、②G7による国際社会の主導への対抗、③多極化する世界を象徴する新しい多国間枠組、といった理解で知られている。この内、イランに関しては①、サウジやUAEに関しては③といった具合に、中東諸国側のBRICSへの期待は一様ではない。とりわけサウジを含むGCC諸国のBRICSへの関心は、多分に食料安全保障、投資、貿易(エネルギー含む)を中心とした実利面にあるだろう。イランのように、米国へのカウンターとしてBRICSに期待する国はむしろ少数であろう。なおサウジ・米国と軍事的に対立するイエメン国民救済政府、すなわちフーシー派はBRICSの重要性を肯定しており、これはイラン以上に①、あるいは②に該当する姿勢に思われる。

 とはいえ、①~③のいずれにせよ、またBRICSであれC5(中央アジア5カ国)であれ、中東諸国が所属する多国間枠組を増やすことに意欲を持っていることは間違いなく、それは米国ないし欧米諸国への依存度が相対的に低下している状況を指す。こうした中で、今次首脳会談で中東諸国の加盟申請が具体的に進むのかは注目に値しよう。

 

【参考】

「GCC:中央アジア諸国との関係強化の思惑」『中東かわら版』No.60。

中東調査会「インドの中東における存在感の増大 ――I2U2と国際南北輸送回廊(INSTC)から見る地域戦略――」『中東分析レポート』R23-03、2023年6月。

『中東研究』546号(特集:ロシアと中東)、2023年1月。

『中東研究』537号(特集:中国の中東進出)、2020年1月。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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