中東かわら版

№68 サウジアラビア:ムハンマド皇太子がイラン外相と会談

 2023年8月17~18日、イランのアブドゥルラヒヤーン外相がサウジアラビアを訪問し、ファイサル・ビン・ファルハーン外相とリヤドで、ムハンマド皇太子とジェッダで個別に会談した。3月のイラン・サウジの国交回復合意を皮切りに、両国は閣僚級の会談を第三国で重ねてきた。そして6月にはファイサル・ビン・ファルハーン外相が、2016年の断交後、サウジ外相として初となるイラン訪問を果たし、ライーシー大統領と会談した。今般、同様に2016年以来初となるイラン外相のサウジ訪問を経て、サウジ側はライーシー大統領のサウジ訪問を促すとともに(サルマーン・サウジ国王が正式に招待済み)、イランがサウジの2030年万博立候補を支持したことに謝意を示した。ムハンマド皇太子との会談については詳しい内容は明かされなかったものの、アブドゥルラヒヤーン外相はこれを「率直で、有益で、生産的なやり取り」がなされたと述べた。

 

評価

 上述したように、国交回復合意後の両国間の要人交流は、第三国を舞台としたものから次第に相互訪問へと移り、今般、ようやくイラン外相のサウジ訪問が実現した。何はさておき、今次訪問で注目すべきは、イラン・サウジ国交回復というイシューにかかわる公式な場に、初めてムハンマド皇太子が姿を見せたことであろう。

 3月の合意以降もイランへの警戒を維持していたサウジには、どちらかといえば本事案にムハンマド皇太子を関わらせるのは時期尚早といった姿勢が見られた。おそらく合意が反故になる、または合意による影響で地域が不安定化する可能性がゼロではないと考慮したのだろう。本事案をムハンマド皇太子の外交成果として過度にアピールしてしまうと、万が一の時、その経歴に大きな傷をつけてしまいかねない。言い換えれば、今次訪問でムハンマド皇太子が登場したことは、サウジにとって対イラン関係が安定期に入ったことを示している。

 もっとも、何をもって安定期に突入したかについては、不透明な部分が多い。サウジ側にとっての対イラン関係における最優先課題はイエメン戦争であったが、現状、イランがイエメン戦争(フーシー派)にそこまでのグリップを有しているとは考えにくく、むしろより広域的な安全保障環境に関する合意形成に取り組んでいると見るのが妥当であろう。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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