中東かわら版

№64 イスラエル:司法改革関連法案の可決

 2023年7月24日、国会は司法改革の関連法案の一部を可決した(賛成64、反対0、ボイコット56)。今回注目を集めたのはいわゆる「合理性条項」である。従来、最高裁は閣僚任命を含めた政府決定に対して、合理性(reasonableness)を欠くと判断した場合、これを無効にできる権限を持っていた。今回の可決で最高裁はこの権限を失うことになり、今後、政府の意向に反論が難しい形での政策決定が進むといった、当初から言われていた懸念が内外から上がっている。なお、今年初めに法案が発表されて以来続いている国内各地でのデモは、今月に入ってますます拡大の一途を辿り、最近では治安部隊がデモ参加者に投石して逮捕されるといった暴挙も起こった。

 

評価

 司法権を制限することで政府の権限強化を図る一連の司法改革関連法案について、ネタニヤフ首相はかねてから、より民意(議員の意向)を反映した措置と評しており、今回の可決についても「民主主義の終わりを意味しない」と、強気な姿勢を崩さない。当初のスケジュール案より2~3カ月遅れているものの、今後の司法改革関連法案のプロセスとしては、ネタニヤフ首相が見据える通りならば、今秋、「人間の尊厳と自由」にかかわる基本法の格下げに着手することが予想される。基本法を一般の法律に格下げすることで、同法に基づいた最高裁の権限を縮小させるというものだ。

 ただし言うまでもなく、政府が抱える目下最大の課題は、拡大・過激化の傾向にある国内各地のデモをいかに終息させるかであろう。司法改革関連法案の中には宗教的保守の意向を反映したものが含まれており、特にLGBTQの権利制限にかかわるものは海外からもその行方に注目が集まっている。国内及び西岸地区でのパレスチナ人との衝突も長期化、過激化する中、政府はイランの脅威への対応や、サウジアラビアとの国交正常化合意に向けた「進捗」といった外政面での成果をアピールすることで市民の目を逸らそうとしているようにも映るが、目下それが奏功している様子はない。

 

【参考】

「イスラエル:モサドがイラン領内でのイラン人テロ首謀者の拘束を発表」『中東かわら版』No.51。

「イスラエル:司法改革をめぐりネタニヤフ政権と野党・法曹界・学生が対立」『中東かわら版』2022年度No.133。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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