中東かわら版

№65 イラン:在イラン・サウジアラビア大使館が再開とイラン国内で報道

 2023年8月9日付『IRNA通信』(国営通信)は、在イラン・サウジアラビア大使館が8月6日に正式に再開した、との匿名のイラン外交官の発言を引用して報じた。サウジアラビア国内メディアでは、本件に関する報道はされていない模様である。

 

評価

 2023年3月10日の関係正常化合意に基づき、イラン・サウジアラビア両国は、相互に国家主権を尊重しつつ、同日から2カ月以内の互いの大使館再開を目指してきた。これを受けて、6月6日、サウジアラビアにあるイラン大使館が正式に再開した(『中東かわら版』No.36参照)。しかし、一方の在イラン・サウジアラビア大使館の再開はなされていなかった。同館の再開が遅れていた要因には、7年間閉鎖されていたために同館の状態が良好でなく、技術的に復旧に時間を要する点が指摘されていた(その間、サウジアラビア外交官は、テヘラン市内のホテルを仮住まいにして復旧に向けた業務に当たっていたとされる)。情報機密の保全などを考慮すれば、サウジアラビアとしては同館再開に向けて慎重に事を運ぶ必要があっただろう。いずれにせよ、今次の報道に基づけば、両国間で合意された大使館再開が完了したことになる。

 今次報道で注目すべきは、イラン国内で報じられている一方で、サウジアラビア国内では報道が見られない点にある。この背景は必ずしも明らかではないが、現在、サウジアラビアは、イランと敵対関係にあるイスラエルとの関係正常化を模索しており、8月9日付『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によると、サウジアラビアは米国との間でイスラエルとの関係正常化への道筋を協議しているようである。とはいえ、サウジアラビア国内の批判やパレスチナ人民の要求等を踏まえれば障害も多い。こうした中、サウジアラビアがイランとの関係正常化を対外的にアピールすることは、イスラエルとの交渉を阻害しかねない。微妙なバランスに配慮し、サウジアラビアが在イラン同国大使館を静かに再開させた可能性はあるだろう。

 

【参考】

「イラン:在サウジアラビア・イラン大使館が正式に再開」『中東かわら版』No.36。

「イラン・サウジアラビア:国交回復合意の発表後、初となる公式外相会談」『中東かわら版』No.1。

「サウジアラビア:イランとの国交回復決定に至った背景及びその影響」『中東かわら版』2022年度No.158。

「イラン・サウジアラビア:中国の仲介で外交関係が正常化」『中東かわら版』2022年度No.157。

「サウジアラビアによる地域秩序再編と対域外大国関係のリバランス ――イランとの国交回復合意を軸に――」『中東分析レポート』R23-01。※会員限定。

(研究主幹 青木 健太)

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