中東かわら版

№59 イラン:ヒジャーブ着用取締り強化の動き

 2023年7月16日、イラン警察は、全土でヒジャーブ(頭髪を覆うベール)の着用取締りを強化すると発表した。7月16日付『ファールス通信』(保守強硬系)は、セイエド・モンタゼル・マフデイー警察情報部門報道官の発言を引用しつつ、概要以下の通り報じた。

 

  • 警察は、社会と人民の要請に応じ、また、大統領府と司法府からの治安維持と法の遵守の精神に則った指示及び家族の基礎の強化に基づき、社会規則の遵守に向けて奉仕する。
  • 本日より、徒歩と自動車による巡視隊(注:風紀警察を指すと考えられる)を、全国に配置する。
  • 服装の規則に注意を払わず、規則を破ることを主張する者は、警察から警告と度重なる指摘を受け、それでも従わない場合は司法の裁きを受けることになる。

 

 16日前後には、SNS上で、巡視隊の構成員と見られる黒いチャードルを被った女性が、ヒジャーブを被らないで道を歩く若い女性を厳しく取り締まる動画が拡散し、注目を集めた。

 

評価

 2022年9月16日にクルド人女性マフサー・アミーニーが死亡して以降、イランでは全土でヒジャーブ着用義務に対する抗議デモが発生した。抗議デモ参加者らは、「女性、人生、自由」と口々に叫びながら、女性の権利拡充を訴えた他、経済状況の悪化等を背景として、イラン体制への不満の声を上げた。この抗議デモが2023年に入り鎮静化していた中、同年4月、警察は取締り強化のため監視カメラを使用すると発表していた(『中東かわら版』No.2参照)。今次発表は、イラン体制が女性のヒジャーブ着用義務の遵守に向けて、妥協することなく、引き続き強硬な態度で服装の取締りに当たる姿勢を示している。

 なぜ今、この判断が下されたのかは定かではないが、本年5月下旬、イランでは風紀取締りを担う勧善懲悪局の長官が交代していた。前長官は、ヒジャーブ着用取締りの強化に反対していた模様であり、今般、より強硬な人物が責任者になったことで取締りが強化された可能性はある。また、街角ではヒジャーブを被らない女性らが散見されるなど、イラン社会の様相が一連の抗議デモを経て大きく変化する中で、宗教保守派や治安機関から厳しい対応を求める声が内部で強まっていた可能性も指摘できよう。最近、ライーシー大統領は頻繁に外遊し、外交に力を入れているように見える。しかし、内政への対応を疎かにすれば、足元をすくわれる恐れはある。警察が教条的な対応を講じれば、ヒジャーブ着用義務に反対する人々との間での衝突が予期されることから、今後、抗議デモの再燃に充分な警戒が必要である。

 

【参考】

「イラン:ヒジャーブ着用取締り強化のため警察が監視カメラの使用を発表」『中東かわら版』No.2。

「イラン:抗議デモの継続と「指導巡視隊」の活動休止をめぐる動き」『中東かわら版』2022年度No.125。

「イラン:ヒジャーブ着用取締りによる女性の死亡をめぐり各地で抗議デモが発生#2」『中東かわら版』2022年度No.90。

「イラン:ヒジャーブ着用取締りによる女性の死亡をめぐり各地で抗議デモが発生」『中東かわら版』2022年度No.88。

(研究主幹 青木 健太)

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