中東かわら版

№58 イラン:ライーシー大統領のアフリカ諸国歴訪

 2023年7月12~14日、ライーシー大統領は、ケニア、ウガンダ、ジンバブエのアフリカ3カ国を歴訪した。今次歴訪は、イランの大統領としては11年ぶりのアフリカ訪問となった。

 ライーシー大統領は、12日にケニアのルト大統領、並びに、ウガンダのムセベニ大統領と、そして13日にジンバブエのムナンガグワ大統領と、各々会談した。今回の歴訪中、ライーシー大統領は、石油化学、IT、農業、漁業、科学技術、医薬品、食料、観光等の多分野にわたり、全部で21のMoUを締結した。同大統領はケニアとウガンダでは、イランが設置する「革新・技術センター」を訪問した。これらセンターは、イランの知識ベース産業の企業にとって自社製品の輸出拠点であり、医薬品、医療器材、農業、建設等の分野での知見をアフリカ諸国に提供する役割を果たしている。

 同大統領はルト大統領との会談で、「イランは、アフリカ諸国は潜在力、能力、才能ある人材、豊富な天然・鉱物資源等を有する国と見ている」と述べ、アフリカとの関係強化に前向きな姿勢を見せた。14日、イランに帰国した同大統領は、「今次外遊の第一の目的は、イランの戦略的厚みを強化することだった」と発言した。

 

評価

 2021年8月の成立当初より、ライーシー政権は近隣外交重視の姿勢を見せてきたが、最近の大統領・外相による積極的な外交姿勢は特筆すべきものがある。6月には、ライーシー大統領が南米3カ国を訪れた他、アブドゥルラヒヤーン外相も中東4か国を訪問した。もとより、欧米との軋轢を深める中で、イランは独自の抵抗経済の確立を目的に、中国、ロシア、近隣諸国との関係強化を図る動きを見せていた。この基本的路線に変更は見られないが、最近の活発な外交活動からは、ライーシー政権が外交上の成果を、国民からの支持獲得に利用しようとの狙いも窺える。実際、2023年3月のイラン・サウジアラビア関係正常化合意はイラン国民から広く歓迎され、それまで燻っていたヒジャーブ抗議デモに代表される国民の不満を消失させた。これを良き前例に、ライーシー政権は外交面で得点を挙げようとしているように見える。

 また、イランは、ロシアへのドローン供与疑惑や人権弾圧等でも欧米と対立しており、現在、一つでも多くの友好国を得ることが自国の外交・安全保障上重要である。イランはCOVID-19国産ワクチンの製造や、国産軍事衛星の打ち上げに成功するなど、高い技術力を有している。アフリカ諸国は、これらに関連する産業の有望な市場である。このように、変動する国際情勢、及び、政治・経済的要因を背景に、イランはこれまで優先順位がそれ程高くなかったアフリカ諸国との関係強化を積極的に進めているものと考えられる。

 

【参考】

「イラン:ライーシー大統領の南米諸国歴訪」『中東トピックス』T23-02。※会員限定。

「イラン:アブドゥルラヒヤーン外相の湾岸諸国歴訪」『中東かわら版』No.49。

「イラン:ライーシー大統領の就任演説に見る政策方針」『中東かわら版』2021年度No.47。

「イラン:新年のスローガンを「生産:知識ベース、雇用創出」と発表」『中東トピックス』T21-12。※会員限定。

(研究主幹 青木 健太)

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