中東かわら版

№57 エジプト:エチオピアとの首脳会談、スーダン近隣諸国首脳会議の主催

 2023年7月12日、シーシー大統領は、スーダン近隣諸国首脳会議に出席するためエジプトを訪問した、エチオピアのアビー首相と4年振りに公式会談した。両国は、2011 年にエチオピアで始まった「グランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダム(GERD)」建設に伴う、ナイル川の水資源をめぐり、激しく対立してきた。会談は翌13日にも行われ、シーシー大統領とアビー首相は、GERDの貯水及び運用に関するエジプト・エチオピア・スーダン間の最終合意に向けた交渉を、4カ月以内に開始することで合意した。

 また13日、今年4月より戦闘が続くスーダン情勢の安定化に向け、近隣諸国による首脳会議がカイロで開催された。スーダンでは、スーダン軍と準軍事組織「迅速支援部隊(RSF)」間の武力衝突により、治安状況が急速に悪化している。同会議には、主催国エジプトのほか、リビア、チャド、南スーダン、エチオピア、エリトリア、中央アフリカ共和国が参加した。会議後、シーシー大統領は全参加国が合意した最終声明を発表した。概要は、以下のとおりである。

  • 武力主体に対して即時停戦の呼びかけ。
  • あらゆるスーダン国外からの干渉を終わらせる必要性の確認。
  • 近隣諸国の安全保障に深刻な影響を及ぼしうるスーダン国内の分断を防止すること。
  • スーダンの国内避難民や、戦闘を逃れて近隣諸国に流入する難民への対処。
  • 食糧及び医療物資の不足への早期対応。
  • 情勢安定化に向けた政治的解決の必要性の確認。
  • スーダンでの包括的な国民対話の呼びかけ。
  • 近隣諸国の外相級会合をチャドで開催すること。

 

評価 

 まずエジプト・エチオピア関係は、エジプトは農業用や水力発電用などにナイル川の水資源を利用している事情から、ナイル川上流でのGERD建設がエジプトへの流水量の減少につながることを強く懸念している。一方のエチオピアはGERDを水力発電に活用し、電力不足問題の早期解決を目指している。こうした中、エジプトは4年振りの首脳会談を実現させ、エチオピアがGERDに関する交渉に応じるという成果をひとまず得た。ただ、エチオピアはGERDの第4回目の湛水を今年8月下旬、もしくは9月上旬に計画しているため、これが決行された場合、両国間で緊張が高まり、交渉プロセスが頓挫する恐れがある。

 次に、スーダン近隣諸国首脳会談の注目点は、エジプトがサウジアラビア・アメリカ主導の停戦交渉とは別に、スーダン和平会合を開催したことである。従来、スーダン情勢ではエジプトがスーダン軍を、サウジアラビアがUAEとともにRSFをそれぞれ支援してきた経緯から、両国は相対する立場である。こうした事情により、エジプトはスーダン安定化プロセスで、サウジアラビア及びUAEによる干渉を防ぎ、肩入れするスーダン軍の国際的正統性が維持される形での最終的な和平を望んでいると考えられる。他方、サウジアラビア及びUAEからの財政支援や投資はエジプト経済を大きく支えているため、エジプトはスーダン情勢をめぐって両国との決定的な関係悪化だけは避けたいのが本音であろう。

【参考】

「エジプト:スーダンから軍兵士の一部が退避」『中東かわら版』No.11。

(主任研究員 高橋 雅英)

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