中東かわら版

№53 エジプト・トルコ:関係改善に向けて大使の任命

 2023年7月4日、エジプトとトルコは、二国間関係の正常化に向けて、相互に大使を10年振りに任命した。エジプト・トルコ関係は2013年7月のエジプトでのクーデタを理由に悪化し、2020年からはトルコのリビアへの軍事介入や東地中海のガス田開発をめぐって激しく対立してきた。

 その後、両国は2021年以降に外交関係改善に向けて動きだし、二国間の会合は諜報機関や外務省の事務方レベルから始まり、現在は外相級でも行われている。2022年11月にはシーシー大統領が訪問先のカタルでエルドアン大統領と初めて対面し握手を交わしたほか、今年5月のトルコ大統領選挙後にも再選を果たしたエルドアン大統領と電話会談し、大使の再派遣に合意するなど、両大統領とも関係正常化を進めていく姿勢を示している。

 

評価

 今般の大使任命を受け、10年振りの大使派遣や両大統領の相互訪問が実現すれば、エジプト・トルコ関係改善がより進展すると予想される。エジプトがトルコとの関係修復を模索している背景には、経済的動機があると考えられる。現在、200社以上のトルコ企業がエジプトで活動し、トルコの対エジプト投資額は20億ドルにのぼる。また、2022年のエジプトの対トルコ輸出額は前年比でプラス32%を記録し(出所:エジプト中央動員統計局)、エジプトにとってトルコは重要な経済パートナー国となっている。経済問題を抱えるエジプトとしては、関係正常化がトルコとの経済協力の拡大につながることに期待を寄せている。

 一方のトルコにとっても過去数年間、自国通貨の下落と高インフレに悩まされているため、1億人超の人口を抱えるエジプトは魅力的な市場である。それと同時に、軍事大国でもある同国との関係改善は、経済、安全保障の面で得られるメリットが大きい。

 トルコは、2019年以降ムスリム同胞団への対応及び中東政策をリセットし、UAE、サウジアラビアなど、湾岸諸国との関係改善に舵を切ったが、湾岸諸国との関係が進む中、エジプトは、新中東カルテット(エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、UAE)と呼ばれる4カ国の中で、トルコが唯一、関係修復を果たせていない国だった。トルコは、エジプトとの関係を改善させるうえで、ムスリム同胞団への肩入れを控えるようになった(参考:金谷美紗「東地中海のガス開発協力とトルコの関係改善外交――エジプトとイスラエルを中心に」71頁)。こうしたトルコの対応がエジプトの懸念を取り除き、同国との信頼関係構築に貢献したと考えられる。また、2023年2月7日のトルコ・シリア地震発生直後にシュクリー外相がトルコを訪問し、チャウシュオール外相(当時)とともに被災地を見舞ったことも関係改善を後押しした。

 関係改善が進む中、エジプトが懸案事項として捉える、トルコのリビア西部での軍事的プレゼンスの維持や、ガス田開発に係る東地中海の海洋境界画定といった問題は依然、解決していない。特に、エジプトは東地中海やリビア領内でのトルコによる一方的な資源開発を容認していないため、この先トルコが掘削活動を本格化させた場合、エジプト・トルコ間の緊張が再び高まり、関係改善プロセスは頓挫する恐れがあるだろう。

 

【参考】

「エジプト・トルコ:外交関係改善に向けた動き」『中東かわら版』2021年度No.60。

「エジプト:トルコと関係改善で合意」『中東トピックス』T23-02。※会員限定。

金谷美紗「東地中海のガス開発協力とトルコの関係改善外交――エジプトとイスラエルを中心に」『中東研究』第545号

(主任研究員 高橋 雅英)
(主任研究員 金子 真夕)

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