中東かわら版

№52 イラン:上海協力機構(SCO)に正式加盟

 2023年7月4日、第23回上海協力機構(SCO)首脳会議が、インドを議長国としてオンライン開催され、イランが9カ国目のメンバーとして同機構に正式加盟した。イランは、2005年からSCOのオブザーバーとして参加してきたが、2021年9月のSCO首脳会議で正式加盟に向けた手続きが始められ、2022年9月にはSCO正式加盟にかかる約束覚書に署名していた(図表1)。ライーシー大統領は演説で、「イランのSCO正式加盟は歴史に残るものだ」、「地域の平和と安定は地域諸国の意思によって達成できるものであり、イランは『近隣と集中』を外交政策の基礎に据えている」、「国際市場における自国通貨の使用拡大はより真剣に検討されるべきである」などと発言した。

 

図表1 イランのSCO正式加盟に向けた動き

日時

主な出来事

2005年

SCOにオブザーバー参加を開始。

2021年9月17日

第21回SCO首脳会議で正式加盟に向けた手続きが開始。

2022年9月14日

アブドゥルラヒヤーン外相がSCO正式加盟にかかる約束覚書に署名。

2023年7月4日

第23回SCO首脳会議(オンライン)で、イランがSCOに正式加盟。

(出所)各種公開情報を元に筆者作成。

 

 今次会議では、インドのモディ首相が議長を務め、分離主義、過激主義、テロリズム等の治安問題への対処、及び、デジタル・トランスフォーメーション分野での協力にかかる「ニューデリー宣言」が採択された。また、ベラルーシが正式加盟に向けた手続きを開始した。

 

評価

 SCOは、軍事協力、経済協力、文化交流などの多分野での協調を行う地域機構であり、中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタンの8カ国が加盟国だった。また、オブザーバー、及び、対話パートナーとして複数の国が参加しており、近年、サウジアラビアなどの中東諸国も対話パートナーとなるなど拡大傾向にある。一方で、北大西洋条約機構(NATO)が軍事同盟であるのに対し、SCO事務局は加盟国に対して強い法的強制力を有すわけではなく、あくまでも緩やかな国家連合体との位置づけである。イランは今次会議において、9番目の加盟国として認められた。7月5日付『イラン』(国営新聞)が「イランの上海への加盟に向けたマラソンが終了」との見出しで報じていることから見ても、イランにとってSCO正式加盟が長年の懸案事項だったことがわかる。

 今次の加盟は、米国のイランに対する厳しい経済制裁への反動として、イランが中国やロシアに接近する流れの中で起こっている動きである。2021年3月にイランは中国と25カ年包括的協力協定を締結するなど、中国と緊密な関係を築いている。また、ロシアとは、軍事・政治・経済等の多分野での関係強化が著しい。ライーシー大統領の演説内容から見ても、米国一極支配への対抗を念頭に置いている面があると考えることができる。

 一方、全てのSCO加盟国が「反米」で一致しているわけではない点にも留意が要る。例えば、インドは、QUAD(日米豪印)の枠組みにおいて重要な役割を担いつつ、2017年からSCO加盟国として活動している。このように、加盟国の中にも立場には微妙な違いあり、各国を明確に色分けできるわけではない。ひとつひとつの国が、日々変動する国際情勢を踏まえながら、自国の安全保障や経済的利益を追求して動くという、至極当たり前のことを改めて確認しておく必要もあるだろう。

 

【参考】

「イラン:上海協力機構(SCO)加盟にかかる約束覚書に署名」『中東かわら版』2022年度No.86。

「イラン:SCO正式加盟承認とその影響」『中東トピックス』T21-06。※会員限定。

(研究主幹 青木 健太)

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