中東かわら版

№54 リビア:リビア駐留「ワグネル」に対するドローン攻撃

 2023年6月29日から30日にかけて、リビアに駐留するロシアの民間軍事会社「ワグネル」が拠点とする東部ハーディム空軍基地が、所属不明のドローン機による攻撃を受けた。アメリカ拠点の企業「Eekad」の衛星画像分析によると、今次攻撃はワグネルが使用するロシア製輸送機Il-76を標的としたものであり、空軍基地のメイン滑走路に火災の痕跡や散乱した航空機の残骸が確認された。

 ドローン攻撃について、カタル・メディア『アラビー21』は、トリポリ拠点の国民統一政府(GNU※ワグネルと連携するリビア東部勢力と対立)・国防省の情報源を引用し、GNUがトルコ製ドローン機「バイラクタル」を用いて、東部のワグネルの拠点を攻撃したと報じた。これに対し、GNUのハッダード参謀総長は6月30日、GNUによるドローン攻撃疑惑を否定した。また米アフリカ軍(AFRICOM)のカハラン広報室長も7月2日、同軍がリビアで最後に行った空爆は2019年9月である点を強調し、今回の攻撃への関与を否定した。

 

評価

 ワグネルが6月23日にロシア政府・軍に対して武装蜂起し、同社をめぐってロシア情勢が混乱する中、アフリカ地域に駐留するワグネルの動向に注目が集まっている。こうした状況下、リビアでロシアの軍事的プレゼンスの確立に貢献したワグネルが直接攻撃を受ける事態となった。現時点で犯行主体は特定されていないものの、今般のドローン攻撃はリビア駐留ワグネルを弱体化させ、同社のリビア退去を目指す試みの一環であると見られる。

 一方、ワグネルのリビア撤退は、むしろリビアでの戦闘再燃の引き金となる恐れがある。2020年以降のリビア紛争は、ロシアとトルコがリビアで軍事拠点を確立し、介入で得た自国の利権を失わないよう、結託して現状維持に努めている。特に、ワグネルは東部勢力の支配地域にある空軍基地や石油施設に加え、停戦ラインの最前線にも配置され、GNU主力部隊のミスラータ民兵による東部への進攻を防ぐ軍事的抑止力として機能している。このため、ワグネルの弱体化や国外撤退はリビア勢力構図を急変させ、西部勢力が要衝の中部シルトや東部の石油三日月地帯を奪還する機会を生み出す可能性がある。

 

【参考】

「リビア:トルコ軍のリビア派兵期間の延長」『中東かわら版』2022年度No.34。

「リビア紛争:外国軍及び外国人傭兵の駐留問題」『中東分析レポート』R21-09。※会員限定。

高橋雅英「ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の中東・アフリカ進出――フランスとロシアの協調・競合関係」『中東研究』第546号

(主任研究員 高橋 雅英)

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