中東かわら版

№49 イラン:アブドゥルラヒヤーン外相の湾岸諸国歴訪

 2023年6月20~22日にかけて、アブドゥルラヒヤーン外相が、カタル、オマーン、クウェイト、UAEの湾岸4カ国を歴訪した。同外相は、20日にカタルのタミーム首長とムハンマド・ビン・アブドゥルラフマーン首相兼外相と、21日にオマーンのブーサイーディー外相、並びに、クウェイトのアフマド・ナウワーフ首相と、そして、22日にUAEのムハンマド大統領とアブドッラー・ビン・ザーイド外相と、各々会談した。湾岸諸国歴訪を終えたアブドゥルラヒヤーン外相は、「近い将来、経済・商業協力の枠組みにおいて、イランとこれら4カ国の人々はよい知らせを耳にするだろう」と発言した。また、同外相は、国連のグテーレス事務総長のイニシアチブにより、アラビア半島北岸6カ国とイランとイラクを足した8カ国外相会合が初めて開かれる予定となっており、この提案を歓迎すると述べた。

 

評価

 ライーシー政権は2021年8月の発足当初より、近隣外交重視の姿勢を一貫して明確に示してきた。この背景には、ロウハーニー前政権が、米国による核合意遵守の不履行に起因して、結局は財政状況を悪化させたことがある。このため、同じ轍を踏まぬとの反省から、ライーシー政権は域内諸国との経済関係強化に取り組んでいる。今次訪問では、会談での主な議題は、エネルギー、輸送、金融、通信等といった経済・商業分野が取り扱われた。アブドゥルラヒヤーン外相の発言通り、イランと4カ国との間で何らかの合意が締結される可能性はあろう。

 今次訪問が実現した背景には、中東における緊張緩和の動きが大きく影響を与えていると考えられる。2016年のサウジ・イラン国交断絶を受けて、クウェイトとUAEは、イランから大使を召還した。しかし、最近になり、2022年8月にクウェイトが駐イラン大使を派遣した他、同月にはUAEも駐イラン大使の派遣を決定した。そのような関係改善ムードが、2023年3月のサウジ・イラン国交回復合意を経て更に強まった流れの中に今次訪問は位置付けられるだろう。

 こうした中、イランのバーゲリーキャニー外務事務次官が21日、カタルの首都ドーハにおいてEUのモラ次長と経済制裁解除に向けた協議を公表したことは見逃せない。5月、イラン外務省は、米国との間接的なメッセージのやりとりを続けていると明かしている。今次訪問でも、囚人交換や核合意再建に関する協議が行われた可能性はあるといえ、訪問先のオマーンやカタルが暫く停滞していた核交渉再開に向けて建設的な役割を果たすかが焦点となる。

 

【参考】

「イラン:ライーシー大統領の就任演説に見る政策方針」『中東かわら版』2021年度No.47。

「クウェイト:2016年以来となる駐イラン大使の任命」『中東かわら版』2022年度No.73。

「UAE:駐イラン大使復帰の決定」『中東かわら版』2022年度No.75。

(研究主幹 青木 健太)

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