中東かわら版

№48 イラン:ライーシー大統領とロシアのプーチン大統領の電話会談、警察司令官のロシア訪問

 2023年6月26日、ライーシー大統領は、ロシアのプーチン大統領と電話会談した。ロシアでは、24日、民間軍事会社ワグネルのプリゴジン司令官が南部ロストフに進攻し一時制圧を宣言するなど、ロシア政府に反旗を翻すような事案が発生していた(その後、同司令官は撤退、ベラルーシが受け入れたと発表)。今次会談は24日の事案の直後に行われたものであり、その概要は以下の通りである(出典はイラン大統領府発表)。

 

  • ライーシー大統領は、イランはロシアの国家主権を支持すると発言した。
  • ライーシー大統領は、地域越境的勢力(注:extra-regional forcesに相当する語の訳)の存在はすべての地域諸国への脅威であり、イランはコーカサス地方の情勢を緊密にフォローするとともに、同地方における紛争は域内国の役割によって解決されるべきだと信じると述べた。
  • プーチン大統領は、イード・アル=アドハー(イスラーム暦の犠牲祭)の到来に祝意を伝えた上で、ロシアは最近の反乱に対して力強く行動したと述べた。
  • プーチン大統領は、コーカサス情勢に関して、地域越境的勢力による行動の否定的な影響を懸念し、近隣諸国による協力と調整によって解決される必要があると発言した。
  • 両首脳は、二国間の経済・商業関係の発展、並びに、これまでに締結された各種合意の履行について協議し、特に、国際南北輸送回廊(INSTC)に見られるテヘラン・モスクワ間の協力モデルを成功事例と位置付け、他分野においても協力を拡大させることを強調した。
  • また、両首脳は、シリア復興を巡るアスタナ・プロセスについて協議した。

 

 翌27日、イラン治安維持軍(警察)のアフマド・レザー・ラーダーン司令官が、ロシア政府の招待に応じ、同国を訪問した。27日付『IRNA通信』(イラン国営通信)は、今次訪問の目的を、イラン・ロシア間で、テロリズム、人身売買、及び、麻薬問題等の治安分野における対策に関しての協力協定を締結することと伝えた。

 プーチン大統領は、24日の事案後、イランの他にも、トルコ、カタル、UAE、サウジアラビアの首脳と電話会談し、自らの行動への支持を取り付けた。

 

評価

 イランとロシアは、欧米諸国と軋轢を深める中で、互いを必要とし合う関係にある。イランにとって、ロシアは政治・経済・安全保障の多方面で重要なパートナーとなっている。米国から厳しい経済制裁を課される状況下、ロシアとの経済・貿易関係は外貨獲得に資する。政治面でも、2022年1月にはライーシー大統領がロシアを訪問し、同年7月に今度はプーチン大統領がイランを訪問するなど、緊密な関係を築いてきた。今回、イランが早々にプーチン大統領の立場への支持を表明したことからは、二国間の結びつきが強固であることがわかる。なお、濃淡こそあれども、他の中東諸国も同様に、プーチン大統領の立場への支持を示したとロシア側は発表した。

 もう一つ注目されるのは、アフマド・レザー・ラーダーン警察司令官のロシア訪問である。基本的に、内務省が所管する警察機構は、イラン国内で治安に関する業務を担っており、警察司令官の外遊は頻繁に見られるものではない。今次の訪問が、6月24日の事案を受けて実現したものなのか、またイラン・ロシアの警察間の協力が具体的にどのような効果をもたらすのかは不明といわざるをえない。とはいえ、イラン・ロシア間での治安分野における協力関係が拡大すれば周辺国にも影響を及ぼし得ることから、今後の一つの着目点となるだろう。

(研究主幹 青木 健太)

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