中東かわら版

№44 パレスチナ・イスラエル:ジェニンでの大規模交戦

 2023年6月19日、ヨルダン川西岸のジェニンの難民キャンプでイスラエル軍とパレスチナ人との間に大規模な戦闘が発生した。戦闘では、パレスチナ側が爆弾を使用してイスラエル軍の車両を損傷させた他、イスラエル軍が部隊の撤収支援のために攻撃ヘリを用いた対地攻撃を行った。匿名のパレスチナ筋によると、攻撃ヘリを用いた対地攻撃は「第二次インティファーダ」(2000~2005年)以来のこととされる。

 戦闘は、イスラエル軍がハマースとイスラーム・ジハード(PIJ)の構成員を逮捕するために難民キャンプで突入・捜索作戦を実施したことに端を発するものだ。戦闘により、パレスチナ人5人が死亡、数十人が負傷し、イスラエル軍側も7人が負傷した。 

評価

 イスラエル軍によるヨルダン川西岸地区の難民キャンプへの突入や捜索は日常的に実施されているが、今般これが比較的大規模な戦闘に発展した理由には、様々なことが考えられるだろう。特に、2023年は4月、5月にイスラエルとPIJなどとが交戦しており、4月の交戦ではレバノンやシリアからもロケット弾が発射される異例の展開があり、イスラエルとパレスチナの間だけでなく、近隣地域も巻き込んで緊張が高まっていた。また、今般の衝突と同時期に、イスラエル政府がヨルダン川西岸地区での入植地の拡大と入植地建設手続きの簡素化・迅速化を表明している。このように、イスラエルとパレスチナの双方にみられる興奮状態やストレスが、双方の衝突の激化に影響を与えている可能性がある。

 一方、ハマースやPIJをはじめとするパレスチナ側は、信条も政治目的も異なる諸派が併存している中、現場での連携を超える水準の政策や戦術・戦略がない状態でイスラエルとの衝突を繰り返し、一方的に損害を出す状態が続いている。また、諸派は個々の利害関係だけでなく外部の支援者の意向も反映した振る舞いをせざるを得ない。19日には、ハマースのハニーヤ政治局長、PIJのナッハーラ書記長がテヘランにて各々イランのライーシー大統領と会談しているが、現下のイスラエルとパレスチナとの力関係、イランの対外関係に鑑み、イランが対イスラエル攻撃強化を促す理由は少ない。また、アメリカ、国連などは、イスラエルによる入植地建設促進に懸念を表明しているものの、いずれも現場でイスラエルの行動を抑制する手段を持っておらず、これらの当事者が具体的な行動を起こすのは戦闘がさらに大規模になった後のことになるだろう。なお、中国はPAのアッバース議長が同国を訪問した際にイスラエルとパレスチナとの交渉推進で役割を果たす意向を表明したが、イスラエルの行動を抑制する能力がない点で、中国も他の当事者と変わりはない。

(協力研究員 髙岡 豊)

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