中東かわら版

№42 アルジェリア:タブーン大統領のロシア訪問

 2023年6月13~15日の3日間、タブーン大統領はロシアを公式訪問した。タブーン大統領には主要閣僚のほか、約70人のアルジェリア企業関係者も同行した。15日、タブーン大統領はプーチン大統領と会談し、両国の戦略的パートナーシップの深化に関する共同宣言に署名した。また両大統領の立ち合いの下、司法や通信、農業、文化、水資源、平和目的の宇宙探査といった分野で8つの政府間協定が署名された。大統領会談では、以下の点が確認された。

  • アルジェリア・ロシア関係は戦略的な性格を持つため、アルジェリアはロシアにとってアフリカ大陸で最も重要な同盟国の一つであること。
  • タブーン大統領が今年7月末に予定される第2回ロシア・アフリカサミットに招待されたこと。
  • アルジェリアが2024年より国連安保理非常任理事国を務める点を踏まえ、両国が国連での協力を強化していくこと。
  • 「OPEC(石油輸出国機構)プラス」と「ガス輸出国フォーラム(GECF)」の枠組みで、両国が世界のエネルギー市場の安定化に取り組むこと。
  • リビア、スーダン、マリ、西サハラ、パレスチナの情勢において両国が問題意識を一致させること。
  • アルジェリアのBRICS加盟を進め、両国間でドル及びユーロ以外の通貨決済を実現させること。

 

評価

 今般のタブーン大統領のロシア訪問は、アルジェリア・ロシアの友好関係を象徴するものとなった。ロシアによるウクライナ侵攻後、アルジェリアはイタリアやフランスなどへのガス輸出に積極的に応じ、エネルギー面での脱ロシア依存を試みる欧州諸国の取り組みに協力してきた。しかし、アルジェリアのガス追加供給は、資源収入の拡大といった単なる経済的動機に基づくものであったため、タブーン大統領はロシアとの関係を断ち切っていない。アルジェリアは、現在交渉中のBRICS加盟を早期に実現し、ロシアとの同盟を強固にすることを目指している。

 一方、タブーン大統領のロシア訪問で注目された、アルジェリアによる新たなロシア製武器購入契約は現時点で確認されていない。アルジェリアは世界有数のロシア製武器購入国であり、2023年の国防予算を前年比で倍増させた点から、ロシアの最新型戦闘機などを購入することが予想されていた。しかし、ロシアが西側諸国から経済制裁を受け、ウクライナ戦争に戦力を投入せざるを得ない状況下、ロシアの軍需産業が新規武器注文に応じられるかという疑問が生じる。アルジェリアとしては、政治的に対立する隣国モロッコが軍備拡張を進めていることから、モロッコに軍事的圧力をかけるには、ロシアからの武器供与を更に必要としている。このため、タブーン大統領は7月末に予定される第2回ロシア・アフリカサミットに際してロシアを再び訪問し、プーチン大統領にアルジェリアへの継続的な武器輸出を働きかける可能性が考えられる。

 

【参考】

「アルジェリア:2023年の国防予算が前年比で倍増」『中東トピックス』T22-08。※会員限定。 

(主任研究員 高橋 雅英)

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