中東かわら版

№41 パレスチナ:PAのアッバース議長の中国訪問

 パレスチナ自治政府(PA)のアッバース議長は、2023年6月12日~16日の日程で中華人民共和国(中国)を訪問した。中国の習近平国家主席は、14日のアッバース議長との会談で中国はパレスチナ問題解決のための和平交渉の前進を支援する用意があると表明した。また、中国とPAは、パレスチナでの開発事業への資金援助を含む複数の協定に調印した。なお、アッバース議長の中国訪問は、2017年以来で通算5回目。訪問中の主な動きは以下の通り。

 *14日、アッバース議長は習主席と会談し、パレスチナ情勢、パレスチナが国連で完全な加盟資格を獲得するための政治・外交的努力、パレスチナでのイスラエルの行為について国際司法裁判所からイスラエルは占領・アパルトヘイト国家であるとの勧告を得るための努力につき協議した。また、両首脳は双方の歴史的関係の強化につき協議した。

*習主席はパレスチナ問題の解決のために必要な3つの点として、(1)1967年の境界に沿い東エルサレムを首都とする完全な主権を享受するパレスチナ独立国、(2)パレスチナが住民の生活と経済で必要なものを充足し、国際社会はパレスチナ向けの開発・人道支援を増やす、(3)正しい方向で和平交渉を維持し、エルサレムの諸聖地の歴史的状況を尊重する、挑発的言辞や行動をしない、を提起した。また、習主席は和平のためにより広範な国際会議を開催することと、中国はパレスチナ内部での和解と和平交渉前進のために積極的な役割を果たす用意があると表明した。

*双方は、中国からパレスチナへの開発事業のための1600万ドルの資金供与協定、双方の教育省間の中国語教育のための協定、外交官の査証免除協定、事業実施のための技術委員会の派遣協定などに調印した。

*15日、アッバース議長は李強首相と会談し、パレスチナ情勢、イスラエルによる侵害行為、双方の戦略的パートナーシップ、双方の経済・通商委員会の活性化、中国企業によるパレスチナ向け投資の促進などにつき協議した。同日、アッバース議長は趙楽際全人代常任委員長と会談し、パレスチナ情勢、入植強化をはじめとするイスラエルの一方的な行為、パレスチナと中国との関係につき協議した。

評価

 今般の訪問は、去る3月に中国がイランとサウジとの外交関係の再開を仲介した後のことで、中東の外交・国際関係場裏での中国の存在感の高まりを意識させるものだ。その一方で、中国は2017年のアッバース議長の訪中の際にも和平交渉を仲介する用意を表明したものの、現在までさしたる動きをしていない。

 パレスチナ問題や中東和平の解決のための営みには、中国の意志や能力とは無関係の要素も多数関係している。例えば、国連でのパレスチナの完全な加盟権の認定には安保理での議決が必要だが、安保理で拒否権を持つアメリカは、パレスチナとイスラエルとの間の平和条約の締結をしなければ完全な加盟権獲得に反対する方針だ。また、ハマースとファタハとの対立、ガザ地区とヨルダン川西岸地区で統治の主体が異なっていることも、和平交渉やパレスチナの国際的な地位の認定の障害となっているが、こちらもパレスチナ諸派の個別の政策や生存戦術、ハマースを支援するイラン、シリア、レバノンのヒズブッラーが形成する「抵抗枢軸」の外交・安全保障政策を抜きに何かの決定や仲介が可能な問題ではない。中国もこうした事情は当然理解していると思われるため、パレスチナへの同国の関与は、民族自決や解放闘争に同情的な中国の伝統的な立場を確認するとともに、中東諸国の世論に向けた好印象の醸成のための示威行動以上のものとなるのは難しいと思われる。

(協力研究員 髙岡 豊)

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