№39 エジプト:イスラエル軍との銃撃事件
2023年6月3日、エジプト国境警備員1人がシナイ半島からイスラエル領内に侵入し、イスラエル国防軍に向けて発砲した。これに対し、イスラエル国防軍も応戦して同警備員を射殺したが、銃撃戦により、イスラエル軍の兵士3人が死亡、2人が負傷した。エジプト軍の報道官は、エジプト国境警備員は麻薬密輸業者を追跡しており、その過程でイスラエル国境を越えたと説明した。エジプトとイスラエルは1948~1973年に4度の戦争を行ってきたが、1979年に平和条約を締結して以来、両国間で大きな衝突は発生していなかった。
同事件の直後、ザキー国防・軍需産業相はイスラエルのガラント国防相と電話会談し、犠牲者に哀悼の意を表すとともに、今般の銃撃戦のような事件を今後再発させない点を確認し、防止策として、国境地帯での監視塔や監視カメラの増設に合意した。6日には、シーシー大統領がイスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、銃撃事件の調査に全面的に協力する考えを伝え、二国間関係の維持に努めた。
評価
エジプト国境警備員がイスラエル兵に発砲した動機は現時点で明らかでないが、エジプト側は今般の銃撃事件がエジプト・イスラエルの二国間協力に及ぼす影響を懸念し、事件の鎮静化を急いでいる。シーシー政権は、シナイ半島でのイスラーム過激派対策や、パレスチナ・ガザ地区の情勢安定化でイスラエルとの連携を必要としている。また、両国が進めるエネルギー協力では、エジプトがイスラエル産ガスを輸入し、液化天然ガス(LNG)化して海外に輸出する計画だ。このように、安全保障・エネルギー分野でエジプト・イスラエル関係が大きく深化しているため、エジプトとしては、イスラエルに再発防止策を提示することで、早期に幕引きを図りたいのが本音であろう。その一方、エジプト国境警備員が明確な意図をもってイスラエルを攻撃したことが判明した場合、エジプト治安当局内で反イスラエル感情が存在している事実が、エジプト・イスラエル関係の冷え込みにつながる可能性も考えられる。
(主任研究員 高橋 雅英)
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