中東かわら版

№36 イラン:在サウジアラビア・イラン大使館が正式に再開

 2023年6月6日、サウジアラビアの首都リヤドにあるイラン大使館が正式に再開した。式典に出席したイランのアリー・レザー・ビーグデリー外務副大臣は、「イランとサウジアラビアとの関係において、本日を重要な日だと認識している」、「両国関係は新たな時代に入った」と発言した。同式典では、両国代表者の立ち合いの下でイラン国旗が大使館内に掲揚された。また、映像を見る限り、各国外交団を招いたレセプションも行われた。イランは、3月10日の国交回復合意以降、4月12日に技術チームをサウジアラビアに送り込んだ他、5月22日にアリー・レザー・エナヤーティー(元外務省ペルシャ湾岸地域局長)を駐サウジアラビア大使に任命していた(下表参照)。今回の式典をもって、同大使館が正式に再開されたことになる。

 

表 イラン・サウジアラビア国交回復合意後の主な出来事

日付

出来事

2023

3

10

中国の仲介によりイラン・サウジアラビアが国交回復合意

 

4

6

イラン・サウジアラビア外相が北京で直接会談

4

8

サウジアラビア政府代表団が大使館再開に向けてイランを訪問

4

12

イラン政府代表団が大使館再開に向けてサウジアラビアを訪問

5

11

サウジアラビアが駐イラン大使を任命

5

11

イランのハーンドゥージー経済・財相がサウジアラビアを訪問

5

22

イランが駐サウジアラビア大使を任命

6

2

イラン・サウジアラビア外相がケープタウンで直接会談

6

6

在サウジアラビア・イラン大使館が正式に再開

(出所)公開情報を元に筆者作成。

 

評価

 本年3月10日のイラン・サウジアラビア国交回復合意以降、両国は同合意に明記されていた、合意後2カ月以内の大使館再開に向けて努力を重ねてきた。所定の期日を過ぎたとはいえ、今回、正式に在サウジアラビア・イラン大使館が再開されたことは国交回復の過程で重要な里程標であり、2016年以来断絶していた両国関係の修復が順調に進んでいるとひとまずいえよう。6月5日、イラン外務報道官は、リヤドのイラン大使館に加えて、ジェッダのイラン領事館、及び、イランのイスラーム協力機構(OIC)代表部を6~7日に再開させると発表していたことから、領事館とOIC代表部の再開も近いとみられる。一方で、テヘランのサウジアラビア大使館の正式な再開は公表されておらず、現時点で、未だ準備中と考えられる。

 両国の大使館が再開された場合、ライーシー大統領のサウジアラビア訪問、並びに、サウジアラビア首脳のイラン訪問が実現するかは一つの焦点である。首脳相互訪問はそれ自体二国間の親密さを示すもので、加えて訪問に合わせては、政治、安全保障、経済、貿易、投資、人の往来、文化交流、科学技術・教育等の多分野で覚書が交わされる可能性があり、二国間関係をさらに前進させる出来事となり得る。今後、直行便の就航、イラン人によるハッジ巡礼の円滑化、貿易の拡大(イランはサウジアラビアとの貿易額を年間10億ドル規模まで拡大させる意欲を示している)等も、二国間関係の正常化を推し量る指標となるだろう。

 こうした中、米国のブリンケン国務長官は6月6~8日の予定でサウジアラビアを訪問中である。米国務省発表によれば、同長官は地域及び国際的課題に関する米国・サウジアラビア間の戦略的関係や安全保障・経済分野での二国間関係について協議する。中国の仲介でサウジアラビアがイランとの国交回復を選んだ事態は、イスラエルとアラブ諸国との関係を改善させることを通じてイラン包囲網を敷き、これをもって中東地域への梃子を働かせようとしていた米国にとって痛手であり、今後の米国の出方も注目される。

 

【参考】

「イラン・サウジアラビア:国交回復合意の発表後、初となる公式外相会談」『中東かわら版』No.1。

「サウジアラビア:イランとの国交回復決定に至った背景及びその影響」『中東かわら版』2022年度No.158。

「イラン・サウジアラビア:中国の仲介で外交関係が正常化」『中東かわら版』2022年度No.157。

「サウジアラビアによる地域秩序再編と対域外大国関係のリバランス ――イランとの国交回復合意を軸に――」『中東分析レポート』R23-01。※会員限定。

(研究主幹 青木 健太)

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