中東かわら版

№35 トルコ:エルドアン氏の大統領再任と新内閣の発表

 2023年6月3日、エルドアン大統領は大国民議会(国会)での大統領就任宣誓式終了後、新内閣を発表した。

 同閣僚の顔ぶれは以下の通り。

 

表 新閣僚リスト

役職

閣僚名

略歴

副大統領

デウレト・ユルマズ

国会議員(公正発展党、2007年~)

副首相(2015年8月28日~11月24日)、大国民議会計画・予算委員会委員長(2020~2023年)

法相

ユルマズ・トゥンチ

国会議員(公正発展党、2007年~)

司法委員会委員長(2020~2022年)

大国民議会・公正発展党副議長(2022~2023年)

家族・社会サービス相

マヒヌル・エズデミル・

ギョクタシュ

女性

ベルギー・ブリュッセル生まれ

駐アルジェリア・トルコ大使(2020~2023年)

労働・社会保障相

ヴェダト・ウシュクハン

有識者

ハジェテペ大学教授(2009年~)

大統領府社会政策委員会委員(2018~2021年)、同委員会副委員長(2021~2023年)

環境・都市・気候変動相

メフメト・エズハセキ

カイセリ市長を同市史上初5期連続で務める(1998~2015年)

国会議員(公正発展党、2015年~)

外相

ハカン・フィダン

軍出身

トルコ国家情報機構(MİT)長官(2010~2023年)

エネルギー・天然資源相

アルパルスラン・

バイラクタル

実業家

世界エネルギー会議(WEC)トルコ会長

青年・スポーツ相

オスマン・アシュクン・

バク

国会議員(公正発展党、2011年~)

NATO議員連盟メンバー、NATO議会政治委員会副会長

元青年・スポーツ相(2017~2018年)

国庫・財務相

メフメト・シムシェキ

国会議員(公正発展党、2007年~)

国庫・財務相(2009~2015年)、

経済担当国務相(2015~2018年)

内相

アリ・イェルリカヤ

官僚(行政官)

イスタンブル県知事(2018~2023年)

文化・観光相

メフメト・ヌーリ・

エルソイ

実業家

再任(2018年~)

国家教育相

ユスフ・テキン

有識者

国家教育事務次官(2013~2018年)

アンカラ・ハジュ・バイラム・ヴェリ大学学長(2018~2023年)

国防相

ヤシャル・ギュレル

軍出身

参謀総長(2018~2023年)

保健相

ファフレッティン・

コジャ

医師(小児科医)

再任(2018年~)

産業技術相

ファーティヒ・カジュル

実業家

トルコ技術チーム(T3)理事長(2016~2018年)

副産業技術相(2018~2023年)

農業・森林相

イブラヒム・ユマクル

実業家

副農業・森林相(2022~2023年)

税関・貿易相

オメル・ボラト

実業家

独立産業家・実業家協会(MÜSİAD)元会長、航空宇宙産業株式会社(TUSAŞ)取締役、公正発展党中央意思決定管理委員会(MKYK)委員

運輸・インフラ相

アブドゥルカドゥル・

ウラルオール

官僚

高速道路総局長(2018~2023年)

国道委員会(YTMK)及び、高速道路財団(KAV)会長

出所:Anadolu Ajansı, その他公開情報をもとに作成

 

 

評価 

 

 共和国建国100周年の節目の年にエルドアン政権は新たなスタートを切った。閣僚の中で再任となったのは、エルソイ文化・観光相とコジャ保健相の2名のみで、それ以外は全て刷新された。公正発展党が持つ強みであった、テクノクラートを重用するという方針に戻り、議員以外の専門家、有識者らを幅広く配置した人事のように見える。

 新体制の下では経済運営は国際市場を視野に、国防分野では軍、外交では安全保障・インテリジェンスが重要視されているとみることができる。

 今般の人事で注目されたのは、深刻なインフレと通貨下落に伴う経常赤字の増加等、経済の立て直しを担う国庫・財務相にシムシェキ氏を再登板させたことである。シムシェキ氏は、国際経済界との関係を構築することを念頭に、「合理的な」経済政策を実行することを表明しており、エルドアン大統領がこれまで推進してきた金利抑制策を変更するか否かが、一つの注目点となるだろう。さらに国会の予算・計画委員会で委員長を務めていた、ユルマズ氏が副大統領に就任したことも留意すべきである。経済のエキスパート二人が主要ポストに就いたことは、エルドアン大統領が最も差し迫った問題が経済であることを認識している証左であると言えよう。シムシェキ氏は、閣僚時代にエルドアン大統領との確執が囁かれていた。しかしトルコ経済の現状に鑑みれば、短期間で出来る限りの成果を出すことが求められている。エルドアン大統領が要請する形でシムシェキ氏が就任した経緯からも、経済問題に関しては新国庫・財務相に全権を委託し、中銀を含めた財政の独立性を担保することが求められよう。

 また、主要閣僚としてエルドアン政権を支えてきた、チャウシュオール外相、ソイル内相、アカル国防相の3名も閣外となった。チャウシュオール外相の後任には、インテリジェンス部門の国家情報機構(MİT)で、長年活躍してきたフィダン長官が就任した。フィダン氏は、直近のエルドアン大統領とプーチン大統領との会談時にもチャウシュオール外相が不在のなか、同席する等、選挙期間中から外相就任が噂されていた。

 ソイル内相の後任には、イスタンブル県知事のイェルリカヤ氏が就いた。同氏は穏やかな人柄で知られ、歯に衣着せぬ物言いで外交問題等にも言及し、物議を醸してきたソイル前内相とは異なり、外交政策などの問題には踏み込まずに、治安情勢とりわけ反テロ路線を継続するものと思われる。

 アカル国防相の後任となるギュレル参謀総長は、トルコ軍内でエルドアン大統領が最も信頼する人物の一人と目されている。同氏就任は、トルコの防衛・安全保障政策が継承されることを示していると言える。

 最後に、エルドアン大統領が家族・社会サービス相に任命した唯一の女性閣僚であるギョクタシュ氏は、公正発展党の期待の新星の一人とされる。同氏は、ベルギー・ブリュッセル生まれで、ヨーロッパ初のスカーフ着用議員としてベルギーの国会議員となったが、1915年の「アルメニア人虐殺」疑惑を否定したため、所属政党から除名された経験を有する。41歳と若いが、2020年には駐アルジェリア・トルコ大使に任命される等、政権側の期待が窺える。

 

【参考】

「トルコ:大統領・大国民議会(国会)議員選挙の実施」『中東かわら版』No.20。

「トルコ:過半数に達する候補者不在で大統領選は決選投票へ」『中東かわら版』No.21。

「トルコ:エルドアン大統領が決選投票を制し再選へ」『中東かわら版』No.29。

 

(主任研究員 金子 真夕)

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