中東かわら版

№37 モロッコ:モロッコでの軍事演習にイスラエルが初参加

 2023年6月5日、モロッコ・アメリカによる合同軍事演習「アフリカのライオン(African Lion)」が16日までの日程で始まり、イスラエルが初参加した。同演習は今年で19回目を迎えるアフリカ最大の軍事演習であり、18カ国から約8000人の兵士が参加している。イスラエル国防軍は昨年の演習にもオブザーバー参加していたが、今年は同軍ゴラニ旅団の兵士12人を派遣し、正式参加した。

 

評価

 モロッコは2020年12月のイスラエルとの関係正常化を機に、イスラエルとの軍事協力を促進している。多層防空システム「バラクMX」や無人攻撃機「ハロップ」などのイスラエル製兵器を購入して軍備拡張を図るとともに、両軍のトップが初めて双方を訪問するなど、軍関係者の交流も活発である。今年1年には、両国が軍事協力を諜報とサイバーセキュリティの分野に拡大することに合意した。こうした状況下、今般のイスラエルの演習参加は、両国の同盟関係を更に強固にする機会となるだろう。

 注目すべき点は、イスラエル国防軍のゴラニ旅団がモロッコに派遣されたことである。同旅団はエリート歩兵部隊であり、豊富な専門知識や実績経験を持つ。モロッコとしては、ゴラニ旅団から治安維持に関する知見を得ることで、イスラーム過激派や分離主義者への監視・取り締まり体制を強化することが狙いである。

 一方、イスラエルとの蜜月関係は、モロッコ国内の親パレスチナ勢力や隣国アルジェリアから強い反発を招くと予想される。外交レベルで、モロッコはイスラエルによるパレスチナへの攻撃を非難し、パレスチナに寄り添う姿勢を示しているが、モロッコ・イスラエルの協力関係は軍事以外にも、経済や文化、教育など様々な分野に広がっている。モロッコはイスラエルとの関係正常化から得られた利益を享受しているため、この先、親イスラエル政策を見直すとは考えにくい。ただ、モロッコ政府としては、パレスチナ支持デモの大規模化、そして批判の矛先が外交政策の実権を握る国王に向かう状況は避けたいだろう。

 また、西サハラ問題などで対立するアルジェリアは、モロッコ・イスラエル間の軍事協力を警戒してきた経緯から、今後モロッコに対して圧力を強めてくる可能性がある。例えば、アルジェリアがモロッコ国境付近で軍事演習の実施回数を増やす事態となれば、アルジェリア・モロッコ間の軍事的緊張がより高まる恐れがある。

(主任研究員 高橋 雅英)

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