中東かわら版

№31 オマーン・イラン:ハイサム国王のテヘラン訪問の背景と地域関係再編に持つ意味

 2023年5月28~29日、オマーンのハイサム国王がテヘランを訪問し、ハーメネイー最高指導者、ライーシー大統領らと会談した。オマーンの国王によるイラン訪問は、2013年のカーブース前国王以来10年ぶりである。

 28日、ハイサム国王はライーシー大統領と会談した。会談において、同大統領は、二国間関係は商業の段階から投資の段階に移行したと述べ、オマーンがイエメンやパレスチナ人民の権利回復のために果たしている役割に謝意を示した。また、同大統領は、イランがオマーンと、工業、商業、通信、防衛・安全保障、道路・鉄道建設、海上ネットワーク、トランジット、金融・財務関係、エネルギー、文化等の多分野で二国間関係を強化したい旨の発言をした。同日、両首脳の立ち合いの下、両国間で、経済、投資、エネルギー等の分野で4つのMoUが署名された。

 翌29日、ハイサム国王はハーメネイー最高指導者と会談した。同会談でハーメネイー師は、イランとオマーンがホルムズ海峡を挟む国であるとして二国間関係の重要性を強調した。またハイサム国王が、イランとサウジアラビアの国交回復合意(2023年3月10日)を歓迎したことに対し、ライーシー政権の外交の成果だと返答した。また同師は、ハイサム国王から、エジプトがイランとの関係改善を望んでいると聞かされ、これを歓迎する、何の問題もないと発言した。

 29日に発出された最終共同声明には、オマーン・イラン両国が、特に貿易・投資の拡大を念頭に、二国間関係を発展させてゆくことが盛り込まれた。この他、今回の訪問のサイドでは両外相が会談し、近く包括的戦略協力協定を締結する計画を発表した。また、この訪問に先立つ26日、イランはオマーンの仲介によって、ベルギー政府との交渉の末に囚人交換を実現している。ベルギー側はイラン人外交官のアサードッラー・アサディー氏を、イラン側は援助活動家のオリビエ・ヴァンデカステール氏を釈放した。

 

評価

 今次訪問で注目されるのは、経済関係強化に関する協議以上に、イラン・エジプト関係の改善に向けた具体的な動きが見えた点であろう。5月24日付のThe National(UAE紙)は、オマーンの仲介を経て、イラン・エジプトが今後数カ月以内に大使を任命し、両国の大統領の会談も年内に計画されていると報じた。ハーメネイー最高指導者がこれを歓迎する立場を公にしたことからも、イラン・エジプト関係の改善は現実味がある。

 よく知られるように、オマーンは核合意再建に向けた交渉等においてもイランと他国(欧米等)との間でパイプ役を担っており、欧米との軋轢を深めるイランにとっては貴重なパートナーとなっている。先のイラン・サウジアラビアの国交回復合意に関しても、両国がオマーンの仲介への謝意を表明したことが記憶に新しい。今次訪問では、オマーンが新たにイラン・エジプト間の仲介を期待されている様子がうかがえた。

 もっともオマーンといえば、こうした仲介外交と同時に、ロー・プロファイルを方針の一つとしている。この点、オマーンの仲介でただちにイラン・エジプトの関係改善が進むとは限らず、今後(イラン・サウジアラビア関係における中国のような)第二の仲介国が登場する可能性もあるだろう。

 またオマーンといえば、4月にイエメンのアンサールッラー(フーシー派)とサウジアラビアの交渉の仲介を務めた。イエメン戦争の終結はイラン・サウジアラビアの国交回復の延長上にあると期待されているところ、オマーン・イラン間の接近がイエメン情勢にも好影響をもたらすかどうかが注目される。

 

【参考】

「オマーン:イランとのガス田開発に向けた首脳会談」『中東かわら版』2022年度No.25。

(研究主幹 高尾 賢一郎)
(研究主幹 青木 健太)

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