中東かわら版

№29 トルコ:エルドアン大統領が決選投票を制し再選へ

 高等選挙委員会(YSK)のイェネル委員長は、2023年5月28日に行われた大統領選挙の決選投票で、非公式ながら得票率52.16%を獲得しているエルドアン大統領の再選が決定したと発表した。これにより、エルドアン大統領はさらに5年の任期を得ることとなった。

 同委員長の発表は、99.43%の開票時点での発表となったが、未集計の809,020票は結果を左右しないと述べた。エルドアン大統領と争った対立候補のケマル・クルチダルオール氏の得票率は、47.84%だった。

 エルドアン大統領は、イスタンブルの自宅前で集まった支持者らに向け、今後5年間トルコを統治する責任を再び我々に与えてくれた国民一人ひとりに感謝したい、と語り、2024年に控えた統一地方選挙での勝利についても意欲を示した。

 

表1 大統領選決選投票の結果(暫定)

候補者名 得票率 所属政党 所属同盟
レジェップ・タイイプ・エルドアン 52.16% 公正発展党(AKP) 共和同盟
ケマル・クルチダルオール 47.84% 共和人民党(CHP) 国民同盟

出所:Anadolu Ajansı, SEÇİM 2023より作成

 

 

評価 

  

 決選投票となった今般の大統領選挙における両候補者の獲得票数は、未確定ながら約200万以上の差がついた。経済の大幅な低迷や大地震後の対応が批判されながらも、エルドアン大統領が再選を果たせた要因は大きく二つあると考えられる。

 第一に野党連合(国民同盟)への支持が伸び悩んだことである。国民同盟は6党による連合を組んで選挙に臨んだが、議会選でも過半数を取れず、大統領選でのクルチダルオール候補の主張も一貫性に欠けた。とりわけ決選投票が決定した5月15日以降、クルチダルオール候補は、トルコ民族主義を前面に押し出し、民族主義勢力の票獲得を目指したが、これによりクルド系の支持が伸び悩んだものと考えられる。あまりにもイデオロギーが異なる6党の連合は、各政党のコアな支持者の離反を招いた可能性もあり、野党側の戦略が失敗したとも言える。

 第二に、大統領選で5.17%を獲得した第三候補のシナン・オーアン氏が、エルドアン大統領支持に回ったことである。オーアン氏は5月19日にエルドアン大統領と会談し、22日に同大統領を支持すると表明した。今後、詳細な分析が必要ではあるが、大統領選の第一ラウンドでのエルドアン大統領の得票率49.52%から今回2.64ポイント上昇したことを考えると、オーアン支持者の約半数以上がエルドアン大統領支持に回ったことになる。エルドアン大統領とオーアン氏との間でどのような協議がなされたのかは不明だが、同氏が支持への見返りを求めたことは確実とみられ、今後どのような展開となるのかは要注目だろう。

 今回再選を果たしたエルドアン大統領は、高い投票率と2回の選挙戦を制したことから民意によって選任されたというお墨付きを得ることとなった。一方で、政権獲得以降初めて決選投票にまでもつれたことをみても明らかなように、「薄氷の上での勝利」であったとも指摘できる。敗れたとは言え、クルチダルオール候補も約48%を獲得しており、国民のおよそ半数がエルドアン政権に「NO」を突き付けたことになる。深刻な状況にある経済の早急な立て直しと、震災復興、シリア人難民の帰還問題等、国内の課題は山積している。また、今次選挙では、国民間の分断も改めて浮き彫りとなっていることからも、困難な船出であることは間違いないだろう。

 

 【参考】

 「トルコ:大統領・大国民議会(国会)議員選挙の実施」『中東かわら版』No.20。

「トルコ:過半数に達する候補者不在で大統領選は決選投票へ」『中東かわら版』No.21。

 

(主任研究員 金子 真夕)

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