中東かわら版

№26 サウジアラビア:ゼレンスキー・ウクライナ大統領の来訪

 2023年5月19日、ジェッダでアラブ連盟サミットが開催された。議長を務めた主催国サウジのムハンマド皇太子は演説で、アラブ地域の安定化に向けた諸国間の連帯を強調し、7日の臨時外相会合で連盟資格の回復が決まったシリアについては、同国のアサド大統領が出席する中、連盟復帰がシリア紛争の終わりにつながることへの期待を述べた。

 また、サミットではウクライナのゼレンスキー大統領がゲストとして出席したことが注目を集めた。ムハンマド大統領はウクライナ戦争につき、パレスチナやスーダンの情勢を引き合いに出しつつ、サウジが対話による解決を支援することを強調した。これに対してゼレンスキー大統領は演説で、仲介者無しに、直接ウクライナと平和実現に取り組むことを各国に呼びかけつつ、一部のアラブ諸国がロシアの蛮行を看過していると批判した。またサミットの同日、ゼレンスキー大統領はムハンマド皇太子との二者会談を実施し、ウクライナ戦争に関してサウジが人道分野や政治的解決において支援することにつき協議した。

 

評価

 サウジがゼレンスキー大統領をゲストとして招待した思惑は、端的には以前から主張している中立的立場を傍証するためであろう。すなわち、サウジ及びアラブ諸国はロシア・ウクライナの一方の側につくことはせず、プーチン・ロシア大統領ともゼレンスキー大統領とも会うという立場を示した。言い換えれば、ゼレンスキー大統領の来訪を経て、サウジあるいは他のアラブ諸国が欧米諸国のような反ロシアに劇的な転身を果たすことはないだろう。

 というより、ゼレンスキー大統領自身、そうした期待をアラブ諸国に抱いていたとは考えにくい。(実際にアラブ連盟サミットの直後に向かった)広島でのG7サミットに行けば、反ロシア諸国の首脳らに歓待され、軍事的支援も期待できるためである。だとすれば、同大統領がアラブ諸国に望んでいるのは、逆にG7の国々にはあまり望めないもの、おそらく(すぐその時が訪れるわけではないにせよ)戦後復興に入った段階での経済的支援ではないだろうか。この分野では、欧米諸国よりもアラブ諸国(特にGCC諸国)の方がはるかに多くを期待できよう。

 アラブ諸国としては、ウクライナ戦争に対して何らかの分かりやすい貢献がなければ、中立を標榜する意味がない。今般のゼレンスキー大統領訪問は、招待されたとはいえ、ともすれば彼がアラブ連盟サミットをジャックし、話題をかっさらったかのように映る。しかし、反ロシア陣営(欧米諸国を中心とする「国際社会」)と中立陣営(サウジ・UAEを中心とする、あるいは中国をも含む国々)の役割分担についての確認と捉えれば、冒頭に述べた中立的立場の傍証という点と併せ、サウジ・ウクライナ双方にとって、案外ウィンウィンだったといえるかもしれない。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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