№25 アフガニスタン:ターリバーン首相代行の交代を含む最近の政治情勢
2023年5月16日付『パジュワーク通信』(民間通信社)は、ターリバーンのムハンマド・ハサン・アーホンド首相代行(パシュトゥーン人、カカル氏族)に代わり、アブドゥルカビール政治担当副首相代行(パシュトゥーン人、ザドラン氏族)が首相代行職を臨時に務めることになったと報じた。翌17日、ムジャーヒド報道官は、ムハンマド・ハサン・アーホンド首相代行は病気の治療のため南部カンダハールで休養することとなり、今後はアブドゥルカビール政治担当副首相代行が代理を務めると発表した。同報道官は、今次人事は日常業務の一環でなされたもので、宣伝に利用することがあってはならず、アフガン国民は何も心配する必要はないと付言した。
ムハンマド・ハサン・アーホンドは、2021年8月のターリバーン復権を経て、同年9月7日の暫定政権の組閣時から同職を務めてきた。同人はターリバーン創設メンバーの一人であり、第一期「政権」期(1996~2001年)には副首相を務めた。その後、ターリバーンが反政府武装勢力の立場に置かれた際、指導者評議会(クエッタ・シューラ)のメンバーだったとされる。
新しく就任したアブドゥルカビールは、第一期「政権」期に東部ナンガルハール州知事や首相代行を務めた。その後、2005年(一説では2010年)にパキスタン情報機関によって拘束された。2020年9月から始まったドーハでの和平交渉では、ターリバーン側交渉団のメンバーの一人を務めた。2021年8月のターリバーン復権以降は、政治担当副首相代行として、諸外国の代表団との折衝をするなど表立って活動してきた。
今回の人事に先立つ12日、カタルのムハンマド・ビン・アブドゥルラフマーン首相兼外相は、カンダハールを訪問した際にムハンマド・ハサン・アーホンド首相代行と会談し、二国間関係について協議していた。
評価
現在、ターリバーン内では、公に姿を現すことのないハイバトゥッラー・アーホンドザーダ指導者が絶大な権限を有している。同指導者は首都カーブルではなく、ターリバーン発祥の地カンダハールを拠点として活動しており、ターリバーン暫定政権の統治方針を声明や演説で表明する他、諸政策の施行や、各省人事への影響を行使しているとされる。最近では、アーホンドザーダ指導者が自身に忠誠を誓う人物を積極的に要職に据えている他、ターリバーン暫定政権内の複数の人物をカンダハールに移住させたと伝えられるなど、同指導者は権力基盤固めを図ってきた。今回の首相代行の交代が、ターリバーン内の勢力図を塗り替えたり、諸外国との関係に多大な影響を及ぼすといったことは考えにくい。一方で、今回の人事が、公式発表とは異なり、外部の意向を受けたものであるとの見方や、ターリバーン内部の不和を背景とするとの見方もある。
もう一つ特筆されるべきは、カタルのムハンマド・ビン・アブドゥルラフマーン首相兼外相のカンダハール訪問である。ターリバーンを政府承認する国が一つもない中、外国の首相級が、アフガニスタンを訪問しターリバーンと接触を図ることは稀である(詳細は「ターリバーン暫定政権の対外関係 ――「事実上の承認」とその具体的な様態――」「『中東分析レポート』R22-14【会員限定】を参照)。カタルがアフガニスタン問題においてアメリカの利益を代表していること、またこの訪問が国連のグテーレス事務総長主催国際会合(5月1~2日)直後であることを踏まえると、同首相兼外相がターリバーンに何らかのメッセージを伝えることを目的として訪れた可能性はある。今後、ターリバーンが現行の政策方針を継続させるのか、それとも何かしらの変化を見せるのかが着目点である。
【参考】
「アフガニスタン:国連のグテーレス事務総長主催会合がドーハで開催」『中東かわら版』No.17。
「アフガニスタン:ターリバーンが暫定内閣を発表」『中東かわら版』2021年度No.58。
(研究主幹 青木 健太)
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