中東かわら版

№24 イスラエル:「エルサレムの日」でアピールされる緊張の継続とアラブ諸国の動向との関係

 2023年5月18日、ネタニヤフ首相はユダヤ暦に基づいた「エルサレムの日」にあわせて演説した。この中で同首相は、エルサレムの日の恒例行事である「旗の踊り」(旗の行進)をイスラエルに向けられた脅威への対抗措置と位置づけ、その意義を強調した。また先立つ13日、イスラエルは9日以降に武力衝突を続けていたパレスチナ・ガザ地区のイスラーム聖戦(PIJ)との間で14日以降の停戦に合意しているが、これについても「イスラエルに対する戦果を画策している域内の他の勢力」に向けたメッセージだとして、緊張状態が続いていることをアピールした。

 今年に入り、イスラエルはガザ地区とシリアを対象とした軍事行動を活発化させている。ガザ地区については、3月のスモトリッチ財務相兼国防副大臣による「(パレスチナ・ナーブルス県の)フワーラ町を消し去るべきだ」との発言や、その後のアクサー・モスクでの治安案件の発生を経て、衝突が増加している。またシリアに関しては、2023年第1四半期の空爆実施の増加ぶりをガラント国防相が説明している(4月20日発言)。こうした一連の動きから、イスラエルはイランとその関連勢力の動向(シリアにおけるレバノンのヒズブッラーの駐留)を念頭に置いており、これがネタニヤフ首相による冒頭の演説に見られた脅威認識を形成していることがよくわかる。

 

評価

 イスラエルでは3月、司法改革案に反対する大規模な抗議運動が全国各地で起こった。これを背景に、4月25日の祝日「独立記念日前夜」では、ネタニヤフ首相が国民の分断の終結を呼びかけた。自身の政策案への批判を社会の問題に置き換えている形だが、イランやパレスチナ武装組織を自国に対する深刻な脅威と位置づけ、それに対する戦果を積極的に報じている背景には、こうした内政面での批判をかわす狙いがあるだろう。

 加えて、イスラエルとしては、国交を結んでいるエジプトやUAEを含めたアラブ諸国が、イラン・シリアとの関係改善を進めている状況が気になるところだろう。これについてイスラエルは具体的な見解を示していないが、現時点でイラン・シリアがアラブ諸国と接近することに具体的なメリットは見いだせていないと思われる。

 この点、イスラエルがサウジアラビアとの関係正常化への道筋をアピールしていることは、焦りとも、時宜にかなった戦略ともとれる。5月7日にリヤドで開かれたサウジ・UAE・米国・インド間の治安会合、またその後のエルサレムでのイスラエル・米国間の協議を経て、イスラエル側には、米国の仲介によってサウジとの関係正常化に向けた前進があったとの見方もあるようだ。もちろん、サウジ側はこれについて公のコメントをしておらず、また現時点では実現のハードルも高い。これがもたらす相当な実利、また正当化するためのストーリーが確実に用意されない限り、サウジはイスラエルとの関係正常化には踏み切らないと思われる。

 もっともイスラエルとすれば、サウジとの関係正常化という成果をすぐに上げられないとしても、イランをめぐるアラブ諸国の動きに対する自国の立場については、以上の軍事行動や対サウジ関係の仄めかしをもって、十分にアピールすることができたといえる。ガザ地区での停戦についても、結局、エジプトが仲介してイスラエルとアラブ諸国がその労をねぎらうという、例年通りのプロットであり、2020年にイスラエルと国交正常化したUAEやバハレーンがイニシアチブを発揮して中東和平自体に進展をもたらすことはなかった。現在、アラブ諸国は緊張の緩和ないしコントロールを目指して域内諸国の連携を進めているが、これがイスラエルをけん制する可能性は必ずしも高くない。

 

【参考】

「シリアのアラブ連盟復帰をめぐる中東諸国の思惑」『中東分析レポート』R23-02。※会員限定

「パレスチナ・イスラエル:アクサー・モスクなどでの衝突激化」『中東かわら版』No.3。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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