中東かわら版

№22 イラン:ロシアとラシュト・アスタラ間鉄道敷設に合意、国際南北輸送回廊の整備を推進

 2023年5月17日、イランはロシアとの間で、ラシュト・アスタラ間鉄道敷設に合意した。テヘランで開催された署名式では、ライーシー大統領とロシアのプーチン大統領(注:プーチン大統領はオンライン出席)が見守る中、イランのバズルパーシュ道路・都市開発相とロシアのサベリエフ運輸相が総額16億ユーロの契約に署名した。今次契約により、カスピ海沿岸の町ラシュトとアゼルバイジャン国境付近の町アスタラとを結ぶ、全長162キロメートルの区間で鉄道敷設がなされることになる(下図参照)。

 

図 ラシュト・アスタラ間鉄道敷設の対象地域(赤色部)

 

(出所)筆者作成。

  

 ライーシー大統領は式典において、今次合意をイラン・ロシア間での重要且つ戦略的な発展と呼び、今次の鉄道敷設が一角を成す国際南北輸送回廊(INSTC)はイランとロシアのみならず、地域全体を裨益すると発言した。

 プーチン大統領は、ラシュト・アスタラ間鉄道敷設は、グローバルな貨物輸送ネットワークの多角化をもたらすものであり、イランを含むペルシャ湾岸諸国の食料安全保障に資すると発言した。また、同大統領は、ロシアはイランとの関係強化に特別の注意を払っていると述べた。

 

評価

 INSTCとは、インド(ムンバイ)から、イラン、アゼルバイジャンを通って、ロシア(モスクワ)までを連結する道路、鉄道、海路の複合輸送ルートである。主要な経由地イランは、バンダル・アッバース港を通じてロシア、中央アジア、インドを連結するハブとしての役割を期待されているが、近年ではチャーバハール港を経由した連結も構想に加えられている。北方では、サンクトペテルブルクを経由してフィンランドまでを含む回廊で、従来のスエズ運河を経由した輸送ルートを用いるよりも、時間やコストを大幅に削減できる。しかし、同回廊は、構想こそ打ち出されたものの政治的推進力を欠き、過去20年間、大きな進展が見られていなかった。

 今次合意は、このINSTC整備における重要区間の鉄道敷設に係るものであるため、長年懸案だったINSTC整備を推進させるものと位置付けられる。今次の動きに至った背景には、イランとロシア双方が現在置かれた国際環境が挙げられる。イランは、2018年5月以降にトランプ元米大統領が厳しい経済制裁を科し始めて以降、金融・原油取引制限を受けるなど、財政難に喘いできた。こうした中、イランは、中国、ロシア、近隣諸国を重要な貿易パートナーと見做すようになり、これら諸国との貿易拡大を通じて抵抗経済を追求してきた。

 一方のロシアは、2022年2月のウクライナ侵攻を受けて、欧米諸国からのロシア包囲網強化に晒される厳しい状況に陥っており、新たな貿易パートナーの開拓、及び、貿易ルートの多角化が喫緊の課題となっている。ロシアにとって、中東は今や重要なパートナーとなった。こうした両者の境遇を後景として、イラン・ロシア両国が、政治・軍事・経済的なメリットを享受することのできるINSTC整備に注力している。もっとも、政治的要因から合意されたものとはいえ、合意内容が計画通り履行されるかは不透明だといわざるをえない。このため、実際に、ラシュト・アスタラ間の鉄道工事が進展するか、INSTCが軌道に乗りスエズ運河経由の従来の輸送ルートに競合するようになるか、そして日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想や中国の一帯一路との関係に如何なる影響を及ぼすか、が今後の着目点である。

 

【参考】

「イラン:インドと自国通貨での貿易取引を提唱」『中東かわら版』No.14。

「イラン:ロシアとの金融・銀行、運輸、エネルギー等の分野での関係強化に向けた動き」『中東かわら版』2022年度No.48。

「エジプト:スエズ運河でコンテナ船が座礁」『中東かわら版』2021年度No.1。

(研究主幹 青木 健太)

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