№21 トルコ:過半数に達する候補者不在で大統領選は決選投票へ
2023年5月14日に実施された大統領選挙は、現職のエルドアン大統領と主要野党6党の統一候補であるクルチダルオール氏ともに、得票率が過半数に届かず当選要件を満たせなかった。(筆者注:当選するには得票率50%+1票の獲得が必要となる)
これを受け、高等選挙管理委員会(YSK)は、5月28日に決選投票を実施することを正式に発表した。
なお、大統領選挙の結果は以下の通り。
表1 大統領選挙の結果(暫定)
候補者名 | 得票率 | 所属政党 | 所属同盟 |
レジェップ・タイイプ・エルドアン | 49.50% | 公正発展党 | 共和同盟 |
ケマル・クルチダルオール | 44.89% | 共和人民党 | 国民同盟 |
シナン・オーアン | 5.17% | 無所属 | ATA同盟 |
ムハッレム・インジェ(5/11 撤退表明) | 0.44% | 故国党 | 同盟なし |
出所:Anadolu Ajansı, SEÇİM 2023より作成
評価
選挙直前の世論調査では、6野党統一候補である、共和人民党(CHP)のケマル・クルチダルオール党首がリードしており、1回目の投票で当選するのではとのメディア予測が国内外で多数散見された。しかし、5月14日の選挙では、エルドアン大統領が49.5%の票を獲得し、クルチダルオール党首は44.89%と、エルドアン大統領にリードを許す結果となっている。
5月28日の決選投票で過半数を確保し、大統領に就任するためには、第3候補のオーアン氏、5月11日に撤退を表明した第4候補のインジェ氏が獲得した票をいかに取り込むか、が重要となる。とりわけ、5.17%という泡沫候補としては異例の支持を集めたオーアン氏の動向が注目されている。
オーアン氏の有権者は、エルドアン大統領、クルチダルオール党首いずれかの選択を迫られることとなるが、オーアン氏自身は、クルチダルオール党首がクルド系政党の「緑の左派党」の要求を受け入れないと約束した場合のみ、クルチダルオール氏を支持し、それが難しいならば、エルドアン大統領を支持する可能性があると発言している。(筆者注:緑の左派党の前身は、人民の民主主義党(HDP)であるが、憲法裁判所が現在HDPの解党を審議中であるため、同党は新党を結成して、今次選挙に臨んでいる)
オーアン氏は、もとは民族主義者行動党(MHP)出身で、トルコ民族主義色の強い政治家だが、2015年以降、バフチェリ党首がエルドアン政権の政策を支持する方向に舵を切ると、同党の他の民族主義者らとともに、反バフチェリ党首の急先鋒の一人となった。また、2017年4月には、憲法改正に関する国民投票に反対の立場を表明し、党内の反対派と協力して憲法改正反対のキャンペーンを展開した。こうした動きを受け、MHP執行部は、オーアンを含む4名の議員の除名を全会一致で決定した。
MHPと袂を分かち、2017年からは無所属で活動していたオーアン氏だが、今次大統領選の候補者となるために必要な10万人の署名を約2週間で集めていることからも、出身地のウードゥル県を中心に一定の支持者がいることは明らかである。
オーアン氏が今後、どちらの側につくにせよ、何らかの見返り(副大統領、閣僚級レベルの重要ポスト)を要求すると考えられ、エルドアン、クルチダルオール両陣営ともに同盟内での調整を迫られることとなるだろう。
【参考】
「トルコ:大統領・大国民議会(国会)議員選挙の実施」『中東かわら版』No.20。
(主任研究員 金子 真夕)
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