中東かわら版

№13 サウジアラビア:スーダン情勢への対応で再確認できるスーダンの位置づけ

 2023年4月15日にスーダンで始まった国軍と準軍事組織「迅速支援部隊(RSF)」との戦争を受けて、国境を接するエジプトをはじめ、中東各国が必要な措置を講じる中、サウジアラビアによる外国人避難ミッションが注目を集めている。

 サウジ外務省は22日、最初の民間人避難ミッションとして自国民91人、外国人66人が海軍の船でスーダンを出国し、ジェッダの軍港に到着したと発表した。その後、26日には50カ国以上の民間人1687名がジェッダに到着したと発表された。こうした積極的な避難支援活動に対しては関係各国から謝意が表明されており、今後の停戦に向けた協議においてサウジのイニシアチブを期待する様子もうかがえる。

 

評価

 以上の対応は、2021年8月のUAE・カタルによるアフガニスタン情勢への対応を思い出させ、対岸に位置し、海上輸送が可能なサウジが果たしている貢献の意義には疑う余地がない。一方、今後のスーダン情勢への関与も見据えるのであれば、サウジ・スーダン関係の特殊な事情も考慮する必要があるだろう。

 1993~2020年、米国から「テロ支援国家」に指定されていたスーダンは、同じく「テロ支援国家」に1984年以来指定されているイランと緊密な関係を築いてきた。このため、スーダンとサウジとの関係は決して良好ではなかった。

 これが2015年以降のイエメン戦争で劇的に転換する。経済立て直しのため、サウジ及びそのパートナーであるUAEとの関係改善に取り組んだスーダンは、2015年12月にサウジが発表した「対テロ軍事同盟」に参加、2016年にはサウジと足並みを揃えてイランとの国交を断絶した。そして2020年にはUAE・バハレーン・モロッコに次いでイスラエルとの国交正常化を決定した。イランと競合する陣営への鞍替えを図ったのは明らかだった。

 この過程で、サウジとスーダンを最も強く結びつけたのは、2015年以降のイエメン戦争である。サウジは同戦争において、RSFを中心とした数万人とも言われる規模のスーダン人兵士を自国経由でイエメン戦争に投入している。2020年にはその規模も大幅に縮小されたとの発表がRSFからなされたが、8年以上に及ぶ闘いで、当然ながら少なくない数が現地で犠牲になった。また自国民からなる正規軍は撤退済みのUAEも、イエメン南部でスーダン人を傭兵として投入している。サウジからすればスーダンは、名実ともに大きな負債となっているイエメン戦争における、数少ない協力国といえる存在だ。

 こうした事情を踏まえれば、サウジが現在、イランとの国交回復、及びイエメン戦争の政治的解決に向けて具体的なアクションを起こしていることは、スーダンにとっても無関係ではない。むしろサウジにとってスーダン情勢は、国軍・RSFそれぞれとの関係はもちろん、対イラン関係・イエメン戦争の進捗にも気を払いながら対応すべき事案ともいえる。

 

【参考】

「エジプト:スーダンから軍兵士の一部が退避」『中東かわら版』No.11。

「スラエル:スーダンとの関係正常化交渉」『中東かわら版』2022年度No.140。

飛内悠子「スーダン共和国における10月25日のクーデタを巡って――アブドゥッラー・ハムドゥークの苦闘」『中東研究』第544号、2022年

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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