№12 レバノン:ヒズブッラーの海上戦力増強
2023年4月24日付『ナハール』(キリスト教徒資本のレバノンの日刊紙)は、イスラエルでの報道を基にヒズブッラーの海上戦力の増強につき要旨以下の通り報じた。
*近年ヒズブッラーが入手した海上戦力は、(イスラエルとヒズブッラーとの)次回の対決の範囲を拡大しうるものだ。同党の戦力は、イスラエルの艦船や海上のガス掘削施設、その他沿岸の重要施設を脅かす。
*ヒズブッラーは、遠隔操作が可能な小型潜水艇、無人航空機、高精度のミサイル、数十発の対艦ミサイルを保有している。
*イランは、ヒズブッラーに地対艦弾道ミサイルの「ハリージュ・ファーリス」を供与した。このミサイルは、海上の固定・移動標的を破壊することが可能だ。ミサイルの射程距離は400kmだが、近い将来700kmに延伸する可能性がある。ミサイルは650キログラムの弾頭を搭載可能で、命中精度が8.5m以内となるミサイルシステムを搭載している。
*イスラエルは、海上での直接・間接の脅威が増大することを警戒しており、近い将来イランからの海上の脅威が増すと考えている。
評価
ヒズブッラーはすでに地対艦ミサイルを装備しており、2006年夏のイスラエルによるレバノン攻撃の際に使用し、イスラエル軍の艦艇に損害を与えている。一方、今般同党がイランから供与されたと考えられている「ハリージュ・ファーリス」は、2011年ごろにイランで量産・配備されたことが明らかになった弾道ミサイルである。イスラエルとしては、ヒズブッラーと同党を支援するイランが海上の対象への攻撃能力を強化していると喧伝することにより、イラク、イエメン、レバノン、シリアなどでのイランとの対峙で、軍事力の強化や軍事行動を正当化しようとしていると思われる。ヒズブッラーは、イスラエルとレバノンとの海上境界画定間接交渉(アメリカが仲介し、2022年10月に妥結した)に先立つ2022年7月にイスラエルが設置したガス掘削施設付近に無人機3機を飛行させ、これをイスラエル軍が撃墜するという事件を引き起こしている。同党としてもイスラエルに対する抑止力の強化や政治的な「メッセージ」を発信する能力の強化のための軍事力の強化は必要不可欠である。
レバノンとイスラエルとの間では、海上境界の画定のように双方の衝突の可能性を低減させる試みが成果を上げている。しかし、ヒズブッラーとイスラエルの双方が相手方の脅威に対抗するための軍備や情宣活動を続けている。この状況は、レバノンの政治・経済危機が長期化する中、偶発的なものも含め双方が交戦する可能性に常時警戒しなくてはならないことを示している。
(協力研究員 髙岡 豊)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/