№11 エジプト:スーダンから軍兵士の一部が退避
2023年4月20日、エジプト軍は、スーダンの準軍事組織「迅速支援部隊(RSF)」に拘束されていた同軍兵士177人のエジプト退避が完了したと発表した。スーダンでは15日、スーダン軍とRSFとの間で武力衝突が起き、治安状況が急速に悪化している。
こうした中、スーダンでの合同訓練に参加していたとされるエジプト軍兵士らは北部の町メロウェ(Merowe)でRSFに拘束された。これを受け、シーシー大統領は17日に軍最高評議会を主宰し、兵士の救出に向けてスーダン軍及びRSFの双方と連絡を取り続けていると述べた。その後、エジプト軍はスーダン側と調整を進め、19日に輸送機をドンゴラ(Dongola)の空港に派遣し、拘束中の兵士をエジプトに退避させた。
スーダンに残る他の兵士について、エジプト外務省は20日、アラブ首長国連邦(UAE)と協力して彼らの安全を確保し、ハルツームのエジプト大使館に移送したことを発表した。また、22日にハルツーム以外の地域に居住するエジプト人に退避を勧告し、ポートスーダン(Port Sudan)のエジプト領事館、又はワーディー・ハルファー(Wadi Halfa)の領事事務所に向かうよう促した。一方、ハルツーム在留エジプト人に対しては、治安状況が改善するまで自宅にとどまるよう呼びかけた。
図表 スーダンの地図
(出所)筆者作成
評価
今般のスーダン情勢悪化を受け、各国は自国民の国外退避への対応に迫られている。スーダン軍・RSF間の戦闘により、ハルツーム国際空港は操業停止に追い込まれ、陸路による出国ルート確保も困難である。こうした状況下、エジプトはハルツーム以外の地域からの空路輸送により、兵士の国外退避に成功した。なお、スーダン在住のエジプト人は1万人以上(半数が学生)にのぼることから、全滞在者の退避には、相当の時間を要す見通しである。
各国の退避状況は、サウジアラビアが自国民などをポートスーダンまで移送し、対岸のジェッダに退避させ、またアメリカがジブチ及びエチオピア経由でヘリコプターをハルツームに派遣し、国外退避を実現した。フランスは、退避オペレーションの際にハルツーム郊外オムドゥルマンで車列への発砲を受けて負傷者が出たものの、ハルツーム郊外の空港から軍用機で自国民を退避させた。
今般のスーダン情勢対応での注目点は、エジプトがUAEと協力したことである。スーダン情勢ではエジプトがスーダン軍を、UAEがRSFをそれぞれ支援してきた経緯から、両国は相対する立場である。エジプトは長年、スーダン軍兵士に訓練を提供し、人的交流を通じて緊密な関係を構築してきた。一方のUAEはサウジアラビアとともに、バシール政権期からイスラーム主義運動と繋がりがあると疑われるスーダン軍と距離をとり、2013年創設のRSFを対抗勢力として肩入れしてきた。こうした状況下、エジプトは兵士の安全確保のため、RSFに影響力を持つUAEと協力したことから、仮に戦況がRSF優勢となった場合、UAEとの更なる連携が必要となってくるだろう。この先、スーダン軍・RSFの双方にチャンネルを持つエジプトとUAE(及びサウジアラビア)が停戦に向けて主導権を発揮できるかが注目される。
【参考】
飛内悠子「スーダン共和国における10月25日のクーデタを巡って――アブドゥッラー・ハムドゥークの苦闘」『中東研究』第544号。
(主任研究員 高橋 雅英)
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