中東かわら版

№10 サウジアラビア・シリア:5月のアラブ連盟サミットを見据えた関係改善の動き

 2023年4月14日、サウジアラビアがジェッダで主催したアラブ地域諸国会合(GCC+エジプト・イラク・ヨルダンによる外相会談)において、シリア戦争の政治的解決を支持すること、そしてその中心的な対応として、シリアのアラブ連盟復帰を認める方向であることが確認された。ただしカタルは依然として、シリアが2011年11月にアラブ連盟の資格を失った原因(市民によるデモの弾圧)は解決していないとの立場から、同国のアラブ連盟復帰に反対の意を示した。18日には、サウジのファイサル・ビン・ファルハーン外相が上記会合のフォローアップとしてシリアを訪問し、同国のアサド大統領と会談している。

 

評価

 上記会合に先立つ4月12日、シリアのミクダード外務・在外国民相は2011年以来となるサウジアラビア訪問を果たし、サウジ・シリア間の外交関係回復について協議した。両国関係については、既に3月末時点で、ロシアの仲介により双方の大使館の再開を決定したと報じられている。こうした経緯を踏まえれば、今次の地域諸国間会合には、サウジ・シリア関係の回復に向けた具体的なステップを経て、この動きを諸国間で共有しようとする、サウジ側の思惑がうかがえる。

 この最後の舞台は、来月19日にサウジの首都リヤドで開催されるアラブ連盟サミットであろう。サウジの理想としては、場合によってはシリアのアサド大統領を招いて、自国での会合でシリアのアラブ連盟復帰を、自らのイニシアチブによる成果として示すことであろう。サウジとしては、アサド政権と対立していたトルコと、逆に強力なパートナーであるイランという、シリア情勢をめぐる2大アクターとの関係改善を進めている流れから、さらなる域内秩序の再編に取り組む狙いだ。

 もっともシリアのアラブ連盟復帰は、そもそも内戦下シリアでのアサド政権の優位が決まり始めた2018年頃から、UAEが率先して周辺国に呼びかけてきた。この点、現下の動きは、シリアの孤立化を終わらせた国(そして、これによってシリアに対する国際社会からの人道支援の扉を大きく開く国)という功績を、サウジがUAEから取り上げようとしているように映らなくもない。シリアのアラブ連盟復帰に反対しているカタルとの協議を含め、来月のアラブ連盟サミットを大団円とするためにはまだ幾つかの課題がある。 

 なおミクダード外務・在外国民相は、12日のサウジ訪問を経て、15日にアルジェリア、17日にチュニジアを訪問した。アルジェリアとはもともと関係の凍結や格下げはなかったが、チュニジアでは双方の大使館業務再開にかかわる合意という成果が報じられた(チュニジアは2012年以来となる駐シリア大使を任命した)。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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