№9 チュニジア:ナフダ党のガンヌーシー党首の逮捕、党本部の閉鎖
2023年4月17日、治安当局はナフダ党のガンヌーシー党首(前国会議長)の自宅を強制捜査した後、同党首を扇動容疑で逮捕した。逮捕の背景には、ガンヌーシーが15日に開催された反大統領派連合「救国戦線」の市民集会で、特定の政治的勢力を排除しようとする試みは、「内戦」につながるだけだと述べ、サイード政権による統治手法を非難したことがある。翌18日にも、治安当局はチュニスにあるナフダ党本部に入り込み、同党幹部3人を拘束したほか、党本部を閉鎖した。加えて、全国のナフダ党支部での集会を禁止する旨を発表した。
こうした中、サイード大統領は18日に行われた国内治安部隊創設67周年記念式典において、「国家を崩壊させる試み」に徹底的に対処することを強調し、治安部隊を鼓舞した。
評価
ガンヌーシーは1981年にナフダ党の前身「イスラーム志向運動」を創設し、その後歴代政権からの弾圧を逃れるためにイギリスで亡命生活を送っていたが、2011年革命後に帰国し、与党・ナフダ党を指揮した。また国会議長(2019~2021年)を務めるなど、チュニジア政治に多大な影響力を持つ人物である。このため、サイード大統領が権力を奪取した2021年7月以降、ガンヌーシーは常にサイード政権による取り締まり対象であった。実際、警察に対する侮辱や紛争地への若者派遣、外国資金の違法受領、左派政党指導者への暗殺関与といった数々の容疑でこれまで司法調査を受けてきた。
今般、サイード大統領が政敵であるガンヌーシーの逮捕に踏み切った理由は、自身の支持率が低下するにつれて、抗議デモを活発化させる反大統領派の動きを封じるため、である。ナフダ党や他野党から成る「救国戦線」は、サイード政権の正統性を認めておらず、2021年7月以前の政治状況に戻そうと試みている。サイード大統領が反大統領派を牽制する行動は、2022年3月にも見られ、ガンヌーシーが大統領の罷免決議に向けてオンライン形式での議会再開を強行した際、サイード大統領は同議会の解散に踏み切った。
サイード大統領は改憲を通じて大統領権限の拡大を実現したのに続き、2011年革命以降の政治体制からの更なる脱却を目指しており、今般のナフダ党の政治的周縁化や最近のシリアとの関係正常化もその一環であると考えられる。
【参考】
「チュニジア:ナフダ党に対する司法調査の開始」『中東かわら版』2021年度No.44。
(主任研究員 高橋 雅英)
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