中東かわら版

№8 アフガニスタン:中国が「アフガニスタン問題に関する中国の立場」を正式に表明

 2023年4月12日、中国は、11項目から成る「アフガニスタン問題に関する中国の立場」と題する文書を発表した。同文書において、中国は、アフガニスタンの独立・主権・領土保全、民族自決、宗教的信仰と民族の慣習への「三つの尊重」を表明した。また、内政干渉、個人的利益の追求、及び勢力圏の追求をしない「三つのせず」の立場も示した。その上で、中国は、アフガニスタンにおいて、開かれた、包摂的な政治体制が構築されることを望むとともに、女性・子ども・あらゆる民族集団の権利が尊重されることを要望した。また、中国は、アフガニスタン和平・復興への支持、東トルキスタン・イスラーム運動(ETIM)をはじめとする国際テロ組織への対策、「3つの勢力」(注:テロリズム、分裂主義、過激主義を指す)への対処、米国によるアフガニスタン在外資産の凍結への批判、地域枠組みの活用、難民対策、麻薬対策等への立場も示した。

 

評価

 今回発表された文書の内容自体は、従来の中国のアフガニスタンに対する立場を繰り返した印象が強く、それ自体に目新しい点はあまり見られない。しかし、今回の文書は、近年では、中国が対アフガニスタン政策指針を包括的に示した初のものである点において重要である。加えて、中国政府が対アフガニスタン政策に関する公式な立場を発表するに当たっては、然るべき政策決定者レベルでの内部了承が必要なはずであり、今、これが示されたことには相応の意味があると見るべきだ。

 一瞥すると、中国は同文書で、米国によるアフガニスタンでの民主的国家建設の失敗や、アフガニスタン在外資産の凍結を鋭く批判している。この点からは、中国が、米国による一極支配体制に対する統一戦線を構築する文脈において、アフガニスタン問題の位置づけを捉え直した可能性が考えられる。中国は今次文書を通じて、多極体制という、新しい国際秩序の形成を見据えて、外交政策におけるアフガニスタン問題の重要性を改めて表明したのかもしれない。特に、台湾海峡の緊迫を想定すれば、中国は自国の東側への対処を念頭に置き、西側に位置し、国境を接するアフガニスタンの不安定化は避けたいはずだと思われる。

 これと関連して、今次発表が、サウジ・イラン国交回復合意(3月10日)の後であることも無視できない。米国の中東からの撤退は既定路線となっており、当面、米国の中東への「再関与」は予想されない。中国は、この米国が抜けた穴を埋めるかのように中東への関与を強めており、湾岸諸国への視線の先にアフガニスタンも捉えている可能性はある。なお、4月13日、ウズベキスタンにおいて、アフガニスタンに関する7カ国外相会合が開かれており、この機会を捉えて今回立場を表明したと思われる。

 中国・アフガニスタン関係においては、上述の大国間競争の側面だけでなく、アフガニスタンに埋蔵される天然資源開発に代表される経済・投資面も重要である。実際、4月13日、ターリバーン鉱物・石油省は、中国企業がリチウム開発に100億ドル投資する用意があると表明したと明らかにした。また、ETIMが名指しされていることからは、中国がテロ対策面でもアフガニスタンを重視していると考えるのが自然である。

 総じて、中国は、グローバル及び地域レベル両面で、アフガニスタン問題を重要課題と位置づけているようである。将来的に、中国が仲介役となり、ターリバーンと旧政権の政治有力者との和解に向けて役割を果たすのか、あるいは他国に先駆けてターリバーンを政府承認するのかといった点が焦点となる。一方のターリバーンの観点からしてみれば、欧米の人権重視姿勢と一線を画す中国の積極的な関与は、自勢力の身を助く歓迎すべきものとなろう。

 

【参考】

「アフガニスタン:ターリバーンが中国企業と油田採掘に向け大規模契約」『中東トピックス』T22-10。※会員限定。

「アフガニスタン:中国が近隣7カ国外相会合を主催」『中東かわら版』2022年度No.1。

「アフガニスタン:中国の王毅外相がターリバーンのバラーダル副首相代行と会談」『中東かわら版』2021年度No.75。

 

青木健太「アフガニスタン・中国関係の変遷と展望――ターリバーン台頭後の地域情勢への影響」『中東研究』544号、2022年5月、11-23頁。

(研究主幹 青木 健太)

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