中東かわら版

№6 チュニジア:大統領がIMF新規融資を拒否

 2023年4月6日、サイード大統領はブルギバ元大統領没後23周年追悼式典において、現在交渉中の国際通貨基金(IMF)新規融資を拒否する考えを示した。チュニジアは2022年10月にIMFから19億ドル相当の新規融資を受け取ることに事務レベルで合意したものの、同年12月のIMF理事会で最終承認は見送られた。こうした中、サイード大統領は今般、チュニジアには現在の経済・社会的課題に立ち向かうための資源があると述べ、IMFが要求する補助金削減を含む経済改革について、外国からのいかなる命令も拒否することを表明した。

 サイード大統領がIMF新規融資に明確な拒否反応を見せる中、アッバース・チュニジア中央銀行総裁やサイード経済・計画相が率いるチュニジア代表団は、4月10~16日にワシントンで開催される世界銀行・IMF春季総会に参加し、融資承認に向けた交渉を継続する予定である。

 

評価

 経済・財政状況が深刻化し、経済救済のためのIMF新規融資が必要となる中、政策上の最終決定権を持つサイード大統領自らが、融資条件である経済改革に難色を示し、IMFと対立する構えとなった。この背景には、同大統領が自身の支持基盤と捉える、中間層や低所得層に補助金削減のしわ寄せが及ぶことへの懸念がある、と考えられる。また、チュニジア国外で大統領の強権的な統治への批判が日々高まっているのに対し、サイード大統領が内政干渉だと主張していた状況下でもあるため、大統領がIMFからの要求にこれまで以上に過剰反応したと言える。

 今後、IMF新規融資に係る交渉が決裂すれば、チュニジアの2023年歳出計画が頓挫する可能性がある。2023年予算の約690億ディナールのうち、国内外の借入額は約240億ディナールにのぼる。対外借入分ではIMF融資が約9%、IMF合意を前提としたサウジからの財政援助が約11%、その他の二国間援助が約21%の割合を占める。このため、IMF合意なしでは資金繰りがますます悪化し、チュニジア政府は今年の債務返済を行えず、現行の食料・エネルギー補助金も維持できなくなるだろう。特に、燃料価格や電気料金に直結するエネルギー補助金は2022年に公的支出全体の15%に達するほど肥大化しているため、同補助金の縮小は国民生活に甚大な影響を及ぼす恐れがある。この先も大統領の独断による政策方針が、チュニジア経済に更なる混乱をもたらすと予想される。

 

【参考】

「チュニジア:IMFとの新規融資で事務レベル合意」『中東かわら版』2022年度No.103。

(主任研究員 高橋 雅英)

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